では、中国はひたすら秋波を送ってくる日本に対して、涼しい顔をしていられる状況かといえば、決してそうではない。

 中国はAPECでホストを務める。主要国のトップを迎えることになり、友好国や関係が正常な国とは、これを機会に首脳会談を行ったり、笑顔で握手をすることになるだろう。外交の舞台ではよく見られる光景だ。

 しかし、安倍首相が笑顔で手を差し伸べて近寄ってきたら、どうするか。世界中のメディアがいるなかで、無視するわけにもいかない。そんなことをしたら、それこそニュースになってしまう。

「もし無視したら、中国が目指す “大国”としての見識を問われてしまう。逆に手を握り笑顔でも見せたら、反日感情を抱く人民を刺激する。難しい判断を迫られているはずだ」(日中関係専門家)

 こうした両国の抱える事情を考えれば、やはり折衷案として“廊下外交”が落としどころだろうとみる専門家は多い。前出の日中関係専門家と在中国の中日関係研究者も、非公式に廊下で意見交換するのが関の山だろうと見る。

 しかし、その開催もままならないかもしれない。なぜなら、中国側はリスクを冒して廊下外交を行ったにもかかわらず、面子を潰された苦い経験があるからだ。

 2012年、野田佳彦・前首相はロシアのウラジオストクで開かれたAPECで、胡錦濤・前国家主席と約15分間立ち話をした。当時は、尖閣諸島の国有化について日本で議論されていた時で、中国国内ではそれに対する不満が渦巻いていたときだった。

 そんな中国側の状況をまったく感知せず、なんとその翌日に、日本は尖閣諸島を国有化した。面子をつぶされた胡錦濤・前国家主席は激怒したと言われ、これをきっかけに日中関係は一気に冷え込み、その後の大規模な反日デモ、日系スーパーや商店に対する暴動、破壊行動に結びついた。

現状の日中関係は異常
異常さの共有こそが出発点

 アジアを代表するだけでなく、GDPでは世界で2番目と3番目の大国である日本と中国の首脳が、まったくコミュニケーションできていない状況は決して正常な状況ではない。できるだけ早く両国関係を改善すべきで、そのためにも日中首脳会談を開催すべきであることに異論を唱える向きは少ないはずだ。

 もし、偶発的にでも日中間で武力衝突が起きれば、経済的にも文化的にも損失は計り知れない。世界経済に深刻な影響を与えることも間違いない。まずは、今の日中関係が異常な状況であること、対立から得られるものは何もなく、多大な損失が発生するという認識を共有することが、出発点ではないだろうか。