

楠見 もう1つ重要なのは、調査を続けていくことで変化が見える点です。当社の調査は毎年行いますので、一昨年と昨年、昨年と今年の結果のスコアの違いを見て、改善されたのか、ダメなのかを具体的に確認できます。
アジアの例では、毎年ベスト・エンプロイヤー調査の結果が改善していくのと連動して、業績もよくなっている企業が存在します。ある意味、最初の調査結果がよかった企業よりも、悪かった企業の方が、人事制度の改善などで年々スコアが上がることを確認できるため、むしろメリットが大きいかもしれません。人事の改善は、企業にとって“長い旅”なのです。
――たとえ外部の調査でも、社員の回答には大なり小なり自社への「遠慮」が入ってくるのではないでしょうか?
楠見 社員への調査はオンラインで行なわれ、選択肢型とフリーテキストの質問の両方を出しますが、その回答を見る限り、なにかの遠慮やバイアスがかかっているということはないと断言できます。事前に私共が第三者機関であること、秘密を厳守することを強く謳っていますので、率直な回答が寄せられています。逆にその信頼性がなければ、12年もこの調査を続けてこられなかったでしょう。
それと、とくに強調したいのは、この調査は単なる社員の意識調査ではないということです。社員調査と経営者のインタビューの結果をそれぞれに実施して、つじつまが合っているかを総合的に判断します。
本来当社は人事制度のコンサルティングを行う会社です。調査結果に関しては企業のマネジメント層に対して詳細なレポートを出して報告します。結果を踏まえて人事制度の改善もアドバイスしていくのが我々の仕事です。90ヵ国に3万人の社員をもっていますので、グローバル展開にも強みがあります。
――人事の国際化のための尺度として有効ということでしょうか。
楠見 必ずしも、国際的な異動時に関係するだけではありません。従来、企業の人事というのは人事部マターで進めてきた文化がありますが、それでは人材マネジメントとして不十分になってきたという事情があります。具体的には、より現場に近いマネージャーの意見を取り入れることが必要になっています。
日本の人事で典型的なのが、次のようなケースです。特定の部署で経験を積んだ社員が、ある日「管理職」に昇格します。その時点で会社は、その社員が管理職としてのスキルを身に付けており、管理業務に入れると思っているのですが、それは大きな勘違いです。なんとなく、その人は長年働いてきたから、管理業務ができるだろうと思われている。実際は、マネージャーとしての経験はゼロなのに、です。
――“腕のいい社員はマネージャーとしても優秀だ”という誤解ですか。
楠見 そうです。おかしいですよね。そういう傾向が強い企業を調査しますと、やはりベスト・エンプロイヤーの要素が欠けています。そして、業績にも悪影響を与えているとみています。