朴槿恵大統領から発せられた
唯一の前向きなメッセージ
今年8月15日、韓国の朴槿恵大統領は、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」の式典で演説した際、日中韓3ヵ国を中心とする「原子力安全協議体」の設置を提案した。多くの日本人はこのことを知らないか、素通りしてしまったのではないだろうか。日本の大手メディアで報じたのは、同日付けの毎日新聞のみ。
この聞き慣れない「原子力安全協議体」という言葉。実は、東日本大震災の直後である2011年4月、日中韓の経済、政治、学術分野の有識者が集まって協力の在り方を議論する第6回「日中韓賢人会議」(日本経済新聞社、中国・新華社、韓国・中央日報主催)で提言されたものだ。
東アジアには原子力発電所が比較的多く立地しており、今後は中国などで急増することが見通されている。この会議の直前に東京電力・福島第一原子力発電所の事故が起こったことも手伝ったのであろう、原子力安全・防災に関して3ヵ国が共同で探求し、各国国民の不安を取り除くことが必要との思いが込められている。
先の朴演説に戻る。
対日関係で触れている点として、「来年は日韓国交正常化50周年で、両国は新しい50年を見据え、未来志向の友好協力関係に進まねばならず、過去の傷を癒す努力が必要」、「日本の一部政治家が両国民の心を引き裂き、傷を与えている」、「慰安婦問題を正しく解決するとき、日韓関係が健全、着実に発展し、来年を両国民が共に祝うことができる」、「来年が、両国が新たな未来に共に出発する元年になることを願う。日本の政治指導者の知恵と決断を期待する」といった毎度お馴染みの旨を報じているのは、各メディアでほぼ共通だ。
ところが、毎日新聞だけは更に『北東アジアの緊張緩和に向け、日中韓3ヵ国が中心となる「原子力安全協議体」の設置を提案』と報じている。この話は、今の日韓関係において、韓国側からの発信としてはとても前向きなものと評価できる。
ただ、安倍晋三首相は、朴大統領とは顔も合わせたくないと言っているとも噂される。それほどまで悪化した空気が蔓延する日韓関係にあって、在韓の日本メディアの多くが朴大統領の前向きな姿を報道しないように談合したのかもしれない。そう思うのは私の穿ち過ぎだろうか。