“鮮魚流通のアマゾン・ドット・コム”を目指す八面六臂。その戦略のキーワードは、「泥臭さ」「広いレンズ」「バカなとなるほど」であった。「圧倒的なユニークネス」と「多くの者の共感を呼び揺り動かすビジョン」という一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第6回解説編。解説者は、グロービス経営大学院教授の荒木博行。
※この記事は、GLOBIS.JP掲載「「バカな」と「なるほど」の交点に解がある 解説編―八面六臂・松田雅也社長(バリュークリエイターたちの戦略論)」の転載です。
◆目指すは“鮮魚流通のアマゾン”異色の挑戦者の戦略とは?――八面六臂 松田雅也社長(前編)を読む
◆「する時にはするもの、それが起業」経営者としての「センス」とは何か?――八面六臂 松田雅也社長(後編)を読む
<八面六臂から学ぶ戦略の3つの要諦>
(1)「泥臭さ」に裏打ちされた競争優位性
(2)広い「レンズ」を通じて考えられた参入タイミング
(3)「バカな」と「なるほど」を両立させるビジネスモデル
「八面六臂」という社名だけを聞いたとき、多くの人は何をしている企業なのか、想像がつくことはないだろう。八面六臂とは、「多方面で目覚ましい活躍をしたり、一人で何人分もの活躍をすること」という言葉の意味であるが、松田社長はこの企業名の由来について、「言葉自体に特段色がついていないから選んだ」とだけ語ってくれた。つまり、その言葉が持つ意味から選んだわけではないらしい。
しかし、インタビューを聞くにつれ、私はこの言葉自体がこの会社の行くべき方向を指し示しているのではないか、と感じるようになった。すなわち、顧客に対して一つの付加価値のみならず、多様な付加価値を提供し、今までにない目覚ましい活躍をする会社になるのではないか、ということである。
それでは、この極めてユニークで可能性のある会社の戦略を3つの視点から紐解いていきたい。
(1)「泥臭さ」に裏打ちされた競争優位性
八面六臂のビジネスモデルのことを松田社長は「鮮魚流通のアマゾン・ドット・コム」という表現をする。記事では「鮮魚×IT」という表現も見受けられる。一見すると、IT化に遅れた業界に対して、いち早くITの仕組みを導入し、そのユニークなアイディアとテクノロジーによって成功しつつある企業のようなイメージで受け止められるかもしれない。
しかし話を聞けば聞くほど、そのような一見して見られる「キレイな」イメージとはほど遠い泥臭い実態が浮き上がってくる。八面六臂の戦略上の優れたポイントは何か、その結論から言えば、「誰もが難しいと思う面倒なことを、一貫してやり続けてきたこと」と言えるのではないだろうか。