厚紙の模型と5000個の試作品

 こたえは製材所で見つかった。

 あるとき訪れた製材所では、木工機械から天井に向けてダクトが伸びていて、10メートル近くもある巨大なサイクロンにつながれていた。そのサイクロンが木材から出るおがくずを含んだ空気を竜巻のように吸い取りながら、粒子を落下させ、きれいな空気だけを外に出していたのだ。

「これだ!」とジェームズはピンときた。

 急いで自宅にもどったジェームズは厚紙でサイクロンの模型をつくり、紙パックをはずした掃除機に取りつけた。それから1時間ほど掃除機を使ってみた彼は、吸引力がまったく低下しないことを確認したのだ。これが、世界初の「吸引力の落ちない掃除機」の誕生につながったのだ。

結局、ジェームズのひらめきが製品になるまで、5000個以上の試作品が必要だった。ようやく完成して掃除機メーカーに掛け合ってみたものの、ほとんどの大企業は興味を示さなかった。年間売り上げ約五億ドルの交換紙パック市場を失うことを恐れたのだ。

 仕方なく、ジェームズは自分で会社を立ち上げることにした。すべての企業が断ってくれたのは幸運だった。ダイソンのサイクロン式掃除機は大成功を収めたからだ。だが、すべての始まりは、掃除機に欠かせないとされてきた紙パックを取りのぞくという単純な発想だったのだ。

 次回の連載は9月22日掲載予定です。


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