すべては、たった一つの「正しい問い」から始まる

 ジェニファーは気の強い女の子だったので、父親の答えに満足しなかった。
「ねえ、どうしてすぐに見られないの?」とあきらめない。

 美しい町を散策しながら、娘の不満そうな顔を見て、エドウィンは心に決めた。「娘が自分に与えた課題を絶対に解いてやろう」

 それから3年後、カメラとフィルムと物理化学が融合して、エドウィンが創業したポラロイド社は写真の世界に「インスタント」という概念を打ち立てた。ある程度以上の年齢の人なら、そのあとのことはご存じだろう。ポラロイド・ランド・カメラが登場し、誰でも簡単に写真を撮ってその場で見られるようになった。

 それは一家に一台の必需品となり、数十年にわたってその地位を保つことになる。エドウィンが起こした変化はたちまち一般家庭を飛び出し、身分証明書やパスポートの写真、超音波写真、フォークアート、警察の捜査などさまざまな分野で使われるようになった。現在の携帯端末に内蔵されているカメラはランドが発明したものではないが、「インスタント」という意味では彼の発明と無縁ではない。

 ポラロイドカメラの成功は、ランドがジェニファーの疑問をまじめに受け止めなければ決してなかった。そう、「いい仕事」は、必ず「正しい問い」から生まれるのだ。不思議なことに、「正しい問い」を投げかけさえすれば、アイディアが次々に浮かんで、チャンスが舞い込んでくるものだ。