アベノミクスに陰りが出てきた。「景気は回復基調にある」と言い続けてきた政府だが、9月の月例経済報告で景気判断を下方修正した。成長の鈍化は誰の眼にも明らか。隠しきれなくなった。

 首相周辺から、来年10月の消費税増税を危ぶむ声が漏れている。強行すればアベノミクスは失速する恐れがある。見送れば財政規律への不安から、国債価格が急落しかねない。突撃も撤退もままならない。野党は弱体化し自民党内にもライバルがいない安倍首相だが、目に見えない経済という魔物との対決を迫られる。

物価上昇で実質賃金はマイナス

 衝撃的だったのは9月8日発表された4~6月の国内総生産(GDP)の2次速報値。実質年率換算7.1%ものマイナス成長となった。下落幅は東日本大震災が起きた2011年1~3月のマイナス6.9%より大きく、予想外の減速だった。要因は個人消費。1~3月に比べ5.1%も落ちた。消費税の駆け込み需要への反動減は落ち着いた、などといわれていたのに5%も消費が落ちたのは深刻だ。「反動減だけでは説明がつかない。消費全体が冷えている」と政府関係者は見ている。

 厚生労働省が2日発表した7月の勤労統計調査(速報)によると実質賃金指数は前年同月比1.4%減、13ヵ月連続の減少となった。一人当たりの現金給与総額は前年に比べ2.6%増え、36万9846円。5ヵ月連続で増加したが、物価の上昇が上回り実質賃金は減った。苦しくなった家計の懐具合が消費を冷やしている。

 物価を上昇させたのは円安だ。安倍政権が発足した時80円台だった円ドル相場は100円台まで下落し、日本経済は束の間の回復感を味わった。自動車など外貨を稼ぐ業種で利益が膨らみ、株価が上がり一時は資産効果で高級品の販売が伸びたりした。円安・株高はアベノミクスの効果として政権支持率の上昇につながった。

 その円安も、喜んでいられない状況だ。輸出企業は潤っても暮らしを輸入品に頼っている消費者の懐は痛む。ガソリンをはじめとするエネルギーや魚介・油脂・乳製品など食料品の価格が高騰している。政府の後押しで上がった春闘の賃金アップを帳消しにしても、まだ足らない物価の上昇がつづいている。

 円安・株高が国民経済を豊かにする、という筋書きは外れつつある。円安で企業の競争力が高まり、輸出が伸び、外貨を稼ぐ。これによって国内の設備投資を刺激し、雇用が増える。大企業が儲かれば恩恵は底辺にまで染み出す「トリクルダウン」と呼ばれる波及効果が期待されていた。