人の行動原理は「快」か「不快」しかない

 こうした人の心理をよくわかっていたのが、パナソニックの創業者である松下幸之助です。ご存知のように、小さい頃に丁稚奉公に出された幸之助は、大変な苦労をして日本を代表する企業を作り上げました。

 その幸之助の有名なエピソードに、こんなものがあります。従業員たちがつまらなそうに作業をしています。電球を布で磨くだけの単純作業だけに、みんな飽き飽きしているのです。そこへやってきた幸之助は、「あんた、ええ仕事しとるなあ」と言ったそうです。戸惑う従業員に、幸之助は次のような話を続けたといいます。

「未来を夢見る子どもたちが『この本の続きをもう少し読みたい』と思ったときに、あんたたちが磨いた電球がポッと灯る。あんたらのしていることは、子どもたちの夢と未来を育むええ仕事や。ほんまにええ仕事やなあ」

 幸之助のこの言葉に、従業員らは涙したそうです。人の行動原理は、「快」か「不快」かしかありません。行動に意味や使命感、ねぎらいという「快」を与えてあげればモチベーションは高まります。そして、「快」を与えてくれた人に対して、好意や忠誠心という「快」で応えようとし始めます。

 一見、「快」とは無縁に見える行動に対しては、その向こうに「快」が待っていることを伝え、理解してもらえるよう努めれば、強制せずとも自発的に動いてくれるようになるのです。

信頼を加速させるには「なぜ」を語ればいい

 売れる販売員、営業マンになりたい、あるいは異性にモテたいのであれば、優秀な脚本家になることを目指しましょう。

 優れた映画やドラマの多くは、主人公(もしくは出演者の誰か)に自分を投影して、感情移入できるように作られています。どんなお気に入りの俳優が主人公を演じていても、感情移入できない話は絵空事にしか感じられず、逆にSFなど明らかに絵空事だとわかっていても、感情移入できる話はワクワクドキドキさせられます。

 商品や恋人も同様です。大切なのは「どんな商品か」「どんな恋人か」ではなく、その商品や恋人を手に入れることによって、「幸せになれる」「楽しくなれる」「他人に誇れる」など、どんな感情を得られるかです。

 見方を変えると、「この商品にはこんな成分が入っています」「私はあれもこれもできる魅力的な人間です」と、「何を(=商品・自分自身)」を売り込むだけでは不十分です。信頼を加速させて行動に移させるには、その商品なり恋人を選んだほうがいいと感情を納得させる「理由」を用意してあげなければなりません。