マーケティングにおいて、こうした理由づけが上手な企業が再春館製薬です。最近のCMでは、主力商品であるドモホルンリンクルという年齢化粧品についての細かい商品説明はされません。「何を」については語らないのです。

 その代わり、語っているのが「なぜ、ドモホルンリンクを選ぶべきか」です。同商品のCMのナレーションは次のとおりです。

「ドモホルンリンクルの仕事場には、ときどき赤ちゃんが出社します。
 それは子育て面談の日。
 育児休暇中の社員に、上司が先輩ママとして話をします。
 子育てのアドバイスや、仕事と家庭を両立させるコツなど、
 育休中の不安には、何よりも経験者の話が心強いのです。
 女性が幸せに働けない会社が、女性を幸せにできるはずがない。
 ドモホルンリンクルです」

 いかがですか? ドモホルンリンクルという商品についての説明は一切されていないことがわかると思います。その代わりにメインターゲットである30代以上の女性の共感を呼ぶような内容にしてラポールを築き、購入すべき理由として「女性がイキイキと働き、女性を幸せにできる会社の化粧品が悪いものであるはずがない」という“安心感”を用意しているのです。

相手が幸せになってもらえるよう誘導することが大切

「ビジョン」の策定に力を入れる企業が最近増えたのも、単なる利益追求には限界があり、「何を」ではなく「なぜ」を社内で共有することが、やりがいやモチベーションの維持に効果があることがわかってきたからです。

 私もコンサルティングをしている美容室のスタッフや店長から「目標の数字を達成したけれど、むなしい」という声をよく耳にします。売上をあげることに躍起になり、目の前のお客さまが置き去りになっているのです。

 自分の売上のためだけではなく、お客さまに喜んでもらうために、本当にお客さまが望んでいる感情を満たしていく。たとえば、同僚の結婚祝いを買おうと入ったお店で、あれこれ迷っていたら「何かお探しですか?」と販売員に声をかけられたとします。そこで、こんな風に言われたらどう感じるでしょうか。

「このカップ、実は私も友達の結婚祝いに贈ったんですよ。そうしたら、すごく喜んでくれて、遊びに行ったときこのカップでコーヒーを出してくれたんです。飲み口に微妙な傾斜がついていて、すごく口当たりがよくて驚きました。友達も同意見で、しばらくしてお客さま用にと、4客追加で買ってくれたんですよ」