ホスト時代、お客さまに5万円の白いドンペリと10万円のピンクのドンペリを見せると、安いほうの5万円の白のドンペリを選ぶ人が圧倒的多数だった。
しかし、ある工夫をすることで、多くのお客さまが10万円のピンクのドンペリを選ぶようになったのだ。
その工夫とは一体どんなものなのか?
「売りたい商品」を、お客さまに自発的に選択してもらうための、心理誘導のテクニックを紹介する。

人は「言葉」より「視覚」に判断を左右される

 相手の潜在意識にさりげなく働きかけていくには、「言葉」以上に「しぐさ」「表情」「行動」などの非言語コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)が大きな役割を果たしています。

 それを証明しているのが、よく知られる「メラビアンの法則」です。アメリカのボディランゲージ研究の第一人者であるアルバート・メラビアンは、矛盾する情報を与えられたときに、「言語」「聴覚」「視覚」3つの手段のうち、どれを優先して判断するかという実験を行いました。

「好意」「嫌悪」「中立」をイメージする言葉と写真で、「嫌悪」している表情の写真と「好意」を示す言葉を一緒にし、矛盾する組み合わせを作成しました。そして、被験者が「好意」「嫌悪」「中立」のうち、どの印象を持ったかを質問したのです。結果は、次のようになりました。

・言語情報(言葉そのものの意味、話の内容) 7%
・視覚情報(見た目、表情、しぐさ、視線) 55%
・聴覚情報(声の質、話す速さ、声の大きさ、口調) 38%

 つまり、私たちは想像以上に、相手の印象を決めたり、本心を探ったりするときに、言葉や聴覚より、視覚を判断基準にしているということです。

 たとえば、嘘をつくとき、人は鼻を触ったり、口元を隠したりするしぐさをよくします。また、言いたいことがあるときは喉のあたりを触る、緊張や不安が強いときは顔のまわりを触るなど、顕在意識では「普通に振る舞おう」と思いながらも、つい鼻や喉を触ってしまいます。「嘘をついている」「不安を感じている」という潜在意識が、しぐさや行動に表出してしまうのです。

 いくら表面を取り繕っても、こうした潜在意識がしぐさや行動に現れて相手に伝わり、気分を害したり、話す気を失わせたりします。しかし、意識してあちこち触るのをやめ、リラックスした態度を取ると、相手は「自分に心を開いてくれている」と好感をもち、話す気力がわいてきます。

 意図的にしぐさや行動を変えていけば、相手に気づかれずに誘導していくことは、決して難しいことではないのです。