IoTとはInternet of Thingsの略で、「モノのインターネット」という日本語訳があてがわれているが、これだけを聞いてもなんだかよくわからない。噛み砕くと「身の回りのすべてのモノが埋め込まれたセンターによってインターネットにつながり、相互で通信が可能になる技術や仕組み、状態」という意味になりそうだ。しかし、これが実際に、産業界にどのような影響を与えるのだろうか。どのような業界に関係が深いものなのだろうか。野村総合研究所の城田真琴上席研究員に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
IoTを構成する技術の
価格低下で一気に普及へ
――IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に注目が集まっていますが、実際にはどのような技術なのか、それが産業界をどのように変えるのかということがイメージしづらい状況なのではと思います。
野村総合研究所上級研究員。1971年北海道旭川市生まれ、94年北海道大学工学部卒業後、大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て、2001年より現職。クラウド、ビッグデータ、IoTなど、先端ITが世の中に与える影響をテクノロジ面だけでなく、法制度や社会環境など、多方面から分析することを得意とする。総務省「スマート・クラウド研究会」技術WG委員、経産省「IT融合フォーラム」パーソナルデータWG委員などを歴任。著書にベストセラーとなった『クラウドの衝撃』『ビッグデータの衝撃』(共に東洋経済新報社)などがある。
Photo:DOL
基本的にはすべてのものがオンラインになるというのが一番のポイントです。ハードウェアでインターネットにつながっているものはごく一部です。いろいろなものが繋がる、それによって、ハードウェアの価値が再定義される。それが基本的な考え方です。
たとえばセンサーが埋め込まれたバスケットボールが開発されています。すでにスポーツの世界には、IoTはけっこう広がっています。
【参考:94Fifty smart sensor basketball】
エアバスのスマートバッゲージも興味深いものです。見た目は普通のスーツケースですが、GPSや重量センサー、SIMカード、RFIDなどが埋め込まれており、ロストバッゲージを防ぐことができるほか、バッグが開けられたかどうかも、ユーザーは専用のアプリケーションで知ることができます。
インターネットとつながってサービスが開発されると、今までとはまったく違う価値が生まれているということが分かります。
――しかしGPSやRFIDなどは、10年ほど前からあった技術だと思います。RFIDなどは日立製作所が積極的にPRしていました。当時と今は何が違うのでしょうか。
やはり値段だと思います。確かに10年ほど前、RFIDは業界内で盛んに話題になった技術でした。ただ、普及にはRFID一つあたり5円程度であることが条件だと言われていました。当時はできていませんでしたが、近年はそれが実現されています。技術的なブレイクスルーがあったことが、当時との違いです。
日本では10年前は騒がれただけでしたが、アメリカでは大手の小売り業者、たとえば百貨店のメイシーズやJCペニーなどでは取り入れられていました。在庫管理をリアルタイムで行ったり、アメリカでは万引きも多いので商品の追跡などを、アプリをつくって実際に行っていました。
面白いのは、アパレル商品などは、何度も試着される服や、試着されるものの買われない服、そういったことを把握して、デザインなどに何か問題があるのかといったことを掴み、商品構成に活かしているところです。
――なるほど。ブレイクスルーが起きて、今はIoTの世界を実現するすべてのパーツが揃っている、と。
そうですね。センサーなどの小型化、低コスト化、低消費電力化、通信技術などの条件が揃ったということだと思います。
ITの世界では、条件が揃って爆発的に普及する、ということは例がたくさんあります。たとえばクラウドだってそうです。クラウドを使って情報やソフトウェアを相互でやり取りするという発想自体は、考えてみればかつてASP(アプリケーションサービスプロバイダー)が出てきたときからあります。でも、昔はブロードバンドのコストが高かった。なかなか採算が合わないという時代もありました。ですが、莫大な量の情報を高速でやりとりできるという通信技術の発達で、最近になってクラウドということで大きな注目を集めています。