彼女は食い下がった。

「彼のような人材が活躍できる場を提供するのが、人事の仕事ではないのですか?」

「君はまだ若いからねえ。わからないかもね。社風ってのは、そんなに簡単に変わらないんだよ」

 その後も議論を続けたが、堂々巡りだった。他の面接官たちも彼の判断に首をかしげているようだったが、上司の意向には逆らえないといった諦めに変わった。結局A氏の考えが通り、その候補者は不採用となった。

 その後、彼女はA氏について、妙な噂をいくつか聞いた。彼と同じ部署の同期や、直属の部下の中で、優秀な人が皆辞めていくというものだった。彼と同じ大学から入った同期のB氏も、将来の幹部候補だった。仕事もよくできる人物だったが、ときどきA氏が「Bはねえ、根はいいやつだと思うんだけど、問題が多いんですよ。僕も心配しているですが、どうにも……」と言って、彼の起こした部下との些細な摩擦を、大げさに上司に報告したりしている。

出世のライバルを潰し続ける人事マン
採用されるのは使えない草食系ばかり

 そう、A氏は自分の出世のライバルになりそうな人物を、ことごとく貶めていたのだ。

 彼自身は仕事もできるし、「人を見る目」もある。それを組織のためではなく、私利私欲のために使っていたのだった。

 そんな彼が責任者となって、新卒採用を行った結果、採用されたのは今で言う「草食系」ばかりだった。さすがに倍率の高い選考過程を勝ち抜いてきたので、頭は良いし、言われたことはきちんとできる。しかし彼女が、「この懸案、君ならどうやって解決する?」と尋ねると、「すいません。僕そういうことは無理なんで……。指示していただければ、言われたことはやります。弁当つくって来いと言われたってやりますよ」という答えが返ってきたという。

「弁当なんていらんわ!(笑)あんたの意見を聞きたいって言ってんの!」

「いや、僕はそういうの苦手なんで、いいです」