ダム本体が完成し、いよいよ水をためるというときに多数のひび割れが発覚した静岡県森町の太田川ダム。事業主体の静岡県は昨年10月、ひび割れ個所にセメントを注入する補修工事を行ない、試験湛水に踏み切った。ところが、太田川ダムのひび割れは止まらず、沈静化とはほど遠い状況にある。

 県は昨年10月時点で上流面5ヵ所、下流面36ヵ所のひび割れ補修を実施し、これで大丈夫と大見得を切った。しかし、今年1~2月に県が行なった最新調査によると、セメント注入の補修を要する幅0.2ミリメートル以上のひび割れが上流面で3ヵ所、下流面で36ヵ所新たに見つかった。

 いずれも、前回の調査(2008年5月)以降に発生したり、幅が拡大したもので、幅0.2ミリメートル未満も含めると、64ヵ所ものひび割れが生じていたのである。

 県河川企画室は本誌の取材に対し、「ひび割れの位置や深さが浅く幅が小規模であるため、ダムの安全性や機能性に問題はない」と答え、すべての補修を施工業者が費用を負担するかたちで3月13日までに完了したと明かした。はたして、これが最後のひび割れ補修となるのだろうか。

 気になるのは今回、前回調査時より大きなひび割れも見つかっている点だ。また、ひび割れの形態も、コンクリートのひび割れによくある水平クラックだけでなく、コンクリートの層を貫く縦クラックもある。

 地元の住民グループ「太田川ダム研究会」の岡本尚代表は「ダム周辺で岩盤滑りが起きたり、群発地震も続いている。クラックは地盤の変位など複合的な要因によるのではないか」と心配する。県は構造的に問題となる大きさではないと強調するが、ダムへの信頼は揺らいでいる。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相川俊英)