瞬間瞬間の積み重ねが
仕事への信頼感を高める

高野 矢野さんの著書を読むと、1分という限られた時間の中に、何を入れて、何を入れないか、自分の人生を凝縮した言葉をどう入れるのか、ということの大切さが、随所から感じ取れます。

【第9回】<br />「リッツ式」か?「NHK式」か?<br />一分で一生の信頼を勝ち取る法<br />高野登×矢野香対談【前篇】

矢野 瞬間の大事さというのは、確かにあります。たとえば1秒という短い時間内に、言葉で何かを伝えるのは無理ですが、表情で伝えることはできます。ニュースVTRが終わった後、映像が自分の顔に切り替わった瞬間の表情が、悲しいニュースの後、楽しいニュースの後では、当然違ってきます。映像メディアの世界は、こうした瞬間の立ち居振る舞い、表情が重要な意味を持ってきます。

高野 実はそれ、ホテルのサービスでも同じなのですよ。一流ホテルがいくらブランドの高さを声高に主張しても、信頼にはつながりません。でも、たとえば、ドアマンの態度ひとつが、そのホテルに対する信頼感を決定づけるのは事実です。お客様がこられた。ドアマンがドアを開けてお迎えする。ほんの一瞬のやりとりにすぎませんが、そこでお客様がどういう印象を受けるかが、本当に重要なのです。だから、リッツ・カールトンでは、基本的に自動ドア化せずに、ドアマン自らの手でドアを開閉しています。

矢野 ドアマンは、そのホテルとの最初の接点ですからね。まさに瞬間の大切さが問われるのですね。

高野 ドアマンたちは、お客様がお見えになられたとき、自分でドアを開けたいんですよ。でも、最近のホテルは自動ドアが普及していますから、ドアマンもちょっと手持ち無沙汰。リッツ・カールトンも、基本的にドアマンを配する文化は維持していますが、それでも一部のホテルは自動化が図られていたりもします。リッツ・カールトンが属しているマリオットグループは世界4000ものホテルをオペレーションしていますから、多少の効率化は受け入れざるをえないのでしょう。そういう現実はありますが、リッツ・カールトンの文化、そしてお客様から得てきた信頼を維持していくためにも、ドアマンは必要不可欠な存在です。

矢野 リッツもNHKも、瞬間を大事にするというところで繋がっているのは、とても興味深いですね。

高野 それだけ、両者とも瞬間、瞬間の積み重ねで勝負をしているということなのでしょうね。