リッツ式とNHK式の共通点とは?
矢野 NHKでキャスターをしていた頃、先輩からよく言われたのが、「圧倒的でなければダメだ」ということでした。それがNHKに対する視聴者の信頼につながるというのです。たしかに、他を圧倒する実力を持って取材に臨む、あるいは番組を制作しているからこそ、いざ信頼感が求められたとき、多くの方がNHKにチャンネルを合わせてくださるのだと、私は思います。
高野 なんと! この「圧倒的」という言葉も、リッツではよく言われています。英語だと「outstanding」ですね。ホテルのサービスというのは、基本的にどこも同じという面はあるのですが、とにかくお客様に対するサービスの事細かい部分で、他のホテルの追随を許さないような、圧倒的なクオリティが求められます。
矢野 NHKでは、アナウンスの技術としては、話すときに「一つひとつの言葉を粒立てるように話せ」と言われました。要するに、一音、一音を大事に、丁寧に話すことが求められます。「神は細部に宿る」ではありませんが、本当に事細かい部分にまで配慮して言葉を発するからこそ、視聴者の方々がNHKに高い信頼感を寄せてくれているのでしょう。
リーダーは、相手をがっかりさせない覚悟を持て
高野 視聴者のNHKに対する期待感はとても高く、それをクリアできなければ、途端に信頼感が揺らいでしまう。つまり、信頼感というのは、相手にがっかりさせない覚悟を持つということだと思います。相手をがっかりさせてしまうと、せっかく築いてきた信頼感が、あっというまに失われてしまいます。これは、ホテルのサービスも同じですし、組織を運営していくうえでも大事にしなければならない点です。組織のリーダーは絶対、部下をがっかりさせるような言動を取ってはいけない。それをやってしまうと、部下はついてきてくれませんし、逆の言い方をすれば、がっかりさせなければ、リーダーは基本的に務まるということです。
矢野 がっかりさせないようにするためにも、常に圧倒的な存在であり続ける努力が必要ということですね。(つづく)
次回【後篇】をお楽しみに。
矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。
NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。
現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。
相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。
著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。
【著者オフィシャルサイト】http://www.authenty.co.jp