ベネッセ事件以降、企業の内部不正による被害の大きさと、企業の信用失墜リスクが改めて問題視されている。そんな中、AI(人工知能)を用いてメールの文言などから不正の証拠を検出したり、犯罪の兆候を示す従業員を見つけ出す技術を開発した日本の企業であるUBICに対して、内外の企業や公共機関などから問い合わせが殺到している。この技術をリードする武田秀樹CTOに、先端AIがビジネスに応用される世界を聞いた。(聞き手/瀧口範子)

――UBICは、電子メールや社内ドキュメントなどの電子データを調査、モニターして、国際訴訟支援や不正行為調査における証拠発見などの事業を手がけてこられました。国際訴訟での証拠提出、カルテル行為や情報漏洩行為の兆候の検出などが含まれます。最近、新たにAI技術が盛り込まれました。

武田秀樹(たけだ・ひでき)
UBIC最高技術責任者(CTO)および同社行動情報科学研究所所長。早稲田大学卒業(哲学専攻)後、複数のシステム開発会社に在籍、2009年にUBICのCTOに就任。 Photo:DOL

武田CTO(以下・武田) 当社は創業以来10年ほどの間に、約400件の国際訴訟支援、約850件の不正行為証拠発見を手がけてきました(今年7月まで)。この中にAIの応用技術を統合することで、より大量のデータに対応することができるようになっています。さらにこの技術は他の分野にも応用できるのではないかと、その開発を行っている最中です。

――AIは現在もっとも注目されている技術の1つですが、幅広い分野です。どのようなAI技術を用いられているのでしょうか。

武田 一般的に機械学習と呼ばれるしくみがあてはまります。当社のAI技術には、特徴が2つあります。1つは、エキスパート(専門家)から学んで、その判断能力を利用する点です。最初は少数のデータから学びますが、その判断力を多数のデータを対象にしても膨らませることができます。AI技術がないと、少ないデータには対応できても、データが大量になるにつれてもれなく判断することが難しい。もう1つは、判断のための知識を学ぶだけでなく、同時に知識をオーガナイズ(組織化)できるという点です。

談合に荷担する人々の
悪事への過程を追跡する

――オーガナイズとは、具体的にはどういったことでしょうか。

武田 たとえば、カルテル行為をモニターしているとしましょう。実際のカルテル行為はいくつかの発生段階に分けられ、関係構築→準備→実行という段階を追っていきます。UBICのAI技術は、データ分析の中でこの段階を自動的に判断して、その発生を認識するのです。

 判断に際しては、当社が開発した「バーチャル・データサイエンティスト」というモデルが機能しますが、そこには対象領域に合った行動科学、情報科学を動員しています。