濱野さんはベニズワイガニを「おもてなし料理」にするために食べやすさ、見た目の美しさにもこだわってレクチャーをしている。

「カニの脚は食べやすいように、両端を切り落として入口と出口を作ります。また脚の表面を包丁で身が見えるように、削り落とします。このひと手間で、食べやすくなるし、赤と白のコントラストが食をそそりますよね。もし、家に疲れて帰ってきて、ビールを飲もうとして、つまみにいきなりカニの脚が、ポンと1本そのまんま出てきたら、どう思います?」

 確かに。1日頑張ったお父さんに愛をこめて、カニのフルコースをサービス。冷え切った夫婦仲までどうにかしてくれそうなベニズワイガニレシピである。

 料理教室の参加者からは「料理のレパートリーに加えたい」「ぜひ作りたい」という声が多数。地道にベニズワイガニ調理が普及しはじめている。

 濱野さんは地元のベニズワイガニの素晴らしさを知ってもらうために、未来の消費者でもある子どもたちへの食育として、「出前授業」も積極的に行っている。ベニズワイガニの生態や漁法を説明するとともに、「かにかご」も持参する。HPには、大きなかにかごに入った笑顔の子どもたち。きっと、未来の『ベニラー』になってくれるに違いない。

境港の新しいご当地グルメ
「境港新かにめし」が誕生

 地元でのベニズワイガニ普及の次の課題は「飲食店」だ。境港にはベニズワイガニを使ったご当地グルメがないばかりか、飲食店でも提供しているお店が少なかった。なんといっても、境港といえば『ゲゲゲの鬼太郎』でおなじみの一大観光地。なのに、多くの観光客が行きかう「水木しげるロード」で、ベニズワイガニを楽しめるお店はなかったのである。妖怪並みにベニは遭遇不可能な状態だったのだ。

 そこでベニズワイガニのご当地グルメを作るべく、立ち上がったのが「境港ベニズワイガニ料理推進協議会」。境港ベニガ二有志の会の兄弟団体で2010年に結成。こちらの会長は、先に登場した川口利之さんだ。

川口利之さん。やはり「カニキャップ」はマストアイテム。すっかり身体になじんでます

 協議会が開発したのは「境港新かにめし」。かにめしといっても、たんなるほぐし身がのったごはんではない。ベニズワイガニまるごと1匹を使った「サプライズ」な「存在感のあるカニ料理」である。

「いやいや開発には苦労しました」と川口さん。

 会員で協議した結果、カニとごはんを使った料理、ということはすぐに決まった。ベニズワイガニは味が濃いので、ごはんと一緒に食べると美味しいという理由からだ。しかしそこからが大変だった。試作に試作を重ね、カニフライ丼、カニあんかけ丼、カニカツ丼などを作ってはみたものの「カニは他の料理にまぜると味が負けてしまう。どれも、いまいち、カニそのものの味が出てくれなかったんです」(川口さん)

 そしてもうひとつの課題があった。

「やっぱり料理には、カニそのものの姿があったほうが喜ばれるのではないか」。カニの姿をいかしたメニューの開発にこだわったのだ。たしかにカニ1匹の姿が見えたほうが「カニを食べた」ありがたみがある。