ベトナムのホーチミン市が“好景気”にわいている。「夏まで閑古鳥が鳴いていたショッピングセンターが今、大にぎわい。“どこにおカネがあるのか”と思うほど、液晶テレビやエアコン、高級ブランド品が売れている」(ジェトロ・ホーチミンの小嶋規純氏)。
昨年12月の小売り・サービス売上高(実質)は、前年同月比10.3%の増。数値が上昇に転じたのは9月以降であり、まさに世界とは逆の状況だ。これを受け、ベトナム国内向けにビジネスを展開している日系企業でも、“チャンス”と見て生産拡大に動くところが相次いでいるという。
消費回復の最大要因は、インフレ沈静化である。商品相場の下落に加え、金融・財政の引き締めも奏功。昨年8月には28%に達していたインフレ率は、今年1月には17%にまで低下した。
高インフレと貿易赤字の拡大で昨年春には通貨危機すら懸念されていたベトナム経済は、“堅調”といえるまでに回復した。9月以降の通貨下落率はむしろ他の新興国に比べ小さい。
驚くのは、消費だけでなく輸出も堅調なことだ。「9月以降も、原油と食品を除く輸出額は前年を超える水準。米国向けが伸びている」(小嶋氏)。不況の米国で、中国製より安価な衣料や家具が売れているためだ。
もっとも、「外部環境から見て、さすがに楽観はできない」(稲垣博史・みずほ総合研究所アジア調査部シニアアナリスト)のが現実である。10~12月の実質GDP成長率は、7~9月の6.5%から5.5%に減速している。
「製造業の落ち込みが激しい。南部のホーチミンは大丈夫でも、北部のハノイは厳しい」(稲垣シニアアナリスト)。軽工業が中心である南部に対し、自動車関連や精密機械中心の北部は、世界的な景気後退の影響が直撃。減産によって30万人が職を失うとされている。
消費ブームにわくベトナム経済にも、北のほうから寒気が押し寄せつつある。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎)