これから始まる「中間層」の議論
教育ジャーナリスト。9月に「代ゼミショック!」を連載。大学卒業後、河合塾に就職。その後、独立して、有名大学等のAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立等をコンサルティング。早稲田大学法科大学院設立に参加。元東京工科大学広報課長、入試課長。現在「大学ジャーナル」編集委員、「読む進学.com 大学進学」編集長、Pearson Japan K.K 高等教育部門顧問。Photo by Jun Abe
これまで文部科学省は、新共通テストの議論を慎重に進めてきたように、わたしには見える。外部からの雑音を極力入れないようにしてきたように見えるのだ。
新共通テストの課題を訴求しやすく、しかもクリアすべき課題への対応をイメージしやすい上位層と下位層に焦点を当てた議論に夏までは終始していた。こうした議論に取り残されていたボリュームゾーンである中間層はどうなるのだろうか。
この中間層を議論し始めると、外部からさまざまな球が飛んでくることだろう。だからこの議論を後回しにしたのではないか。
まずは新共通テストの基本的な骨格をはっきりさせて、その後で技術的な議論を展開させる。当然と言えば当然の手法かもしれないが、とかくこうした議論の進め方は誤解を招く。1点刻みを止めると言えば、「大枠で評価したところで、その境界は1点差じゃないか」となる。このことは後述するが、得点の大括り化はそういうことではなく、他の意味合いが強いのだ。
そして、中間層の議論を始めると、その層の大きな引き受け手である私立大学関係者がこぞって議論に参戦することになる。中間層を一手に引き受けているのは私立大学であるから、何か言いたくなるのは仕方がない。イメージがはっきりしない段階で中間層の議論をすれば議論百出で収拾がつかなかっただろう。これはなかなかやっかいである。
私立大学関係者は上位層と下位層の議論には口を挟みにくい。一部の私立大学を除き、上位層は自分たちのテリトリーではない。上位層の議論に加われる大学は国立大学を含めてもごく少数だ。
下位層については、十分に高校で勉強して基礎・基本ができていれば、現状よりも入学後の履修がスムーズになる。新共通テストが基礎・基本の学習と学習習慣が担保されるような仕組みであるならば大歓迎であり、口を挟む必要はない。こうした事情もあって、上位層と下位層の議論から始めて、中間層については後回しにしたのだろう。