海外で評価されても
ブームに取り残される鉢の産地

──ところで、常滑の鉢がそんなに海外で人気ならば、どんどん鉢を作っていこうという機運が盛り上がっているんじゃないですか?

「それが、まったくないんです。だいいち、常滑の盆栽鉢が高級鉢として認知されていることを常滑の人たちはまったく知りませんから。常滑でやきものと言えば急須。鉢はどうしても低く見られる傾向があるんです」

海外の「盆栽ブーム」で盆栽鉢まで大人気に!<br />日本人が忘れかけた「TOKONAME」の魅力古いやきもの産地・常滑を象徴する煉瓦の煙突がある風景。昭和40年代以降の窯ではこういった煙突は使われなくなっている。写真は片岡秀美さんの工房から、窯元「山秋」さんの煙突を仰ぎ見た風景。盆栽鉢の老舗メーカーだったが、残念ながら廃業されてしまったそうだ

──海外では高級鉢なのに?

「地元関係者に見せてもらった資料によれば、常滑市における植木鉢の製造品出荷額は、そのピークを1979年(昭和54年)に迎えています。事業所数に関しても1978年(昭和53年)の232がピークで、1984年(昭和59年)に急速に落ち込んだ後はじわじわと減少傾向が続いています。

 じつは、これら統計に含まれる植木鉢には養生鉢、園芸鉢、盆栽鉢と三種類ある。そのうちの盆栽鉢に限って言うと、現在、常滑市で作っている業者は推定で10あるかどうかという状況です」

──それはもはや絶滅危惧種……。

「ですから、この状況をなんとか好転したいと思い、常滑の鉢を海外にアピールして販売するサイトを立ち上げたわけなんです」

──それにしても、どうしてこんなことになってしまったんでしょう。

「一つには、盆栽の鉢があまりにも儲からないから。国内では市場がシュリンクする一方ですから、ビジネスとして成り立たない、と作るのをやめてしまう。もう一つは大量生産時代に確立した従来のやり方を変えられなかった、ということがあると思います。

 国内の産地はどこも似たり寄ったりだと思いますが、分業体制や問屋の制度があまりに強固で、生産者とそれを売る人の間に垣根ができてしまっている。たとえば私が今、海外の愛好家に知ってもらいたいと思って売り出している作家さんは伝統工芸士としてかなりキャリアのある方ですが、自分の作ったものがどういう経路で売られて、誰がそれを買っているのか、をまったく知りませんでした。そもそも売るということに意識が向いていなかったですし、自分の作品を海外に発信してアピールするなんていう発想もありませんでした。

 一方で、海外の状況を眺めると、欧米では次々と盆栽鉢を作る新しい作家さんが出てきている。特にヨーロッパの人たちはデザインセンスも優れていますし、発信力もあります。既存のしがらみがない分、自由にモノが言えるし書けるんですね。ですから、盆栽が世界へ広まったのはいいことですが、国内の鉢産地はそのブームにまったく乗りきれずに、取り残されてしまっています」