岸見 私を他の私に交換することはできない。でも更新はできるかもしれない。自分や他者についての見方を変えることはできる。そのことは事実上、自分を変えることになる。私はパセリであって、ジャガイモではない。これからジャガイモになりたいと思い続けていても、それはけっして実現しない。だったらパセリとしての人生を生きていくことを考えるしかない。

パセリ たしかにそうですね。この間、たまたまBARのマスターに言われたんですけど、私は消臭効果があるようで、ニンニクのような臭いの強いものを食べた後にパセリを食べると口臭を抑えられるそうなんです。そういう立ち位置というか役割であれば、他のお野菜とは少し違った形で多くの人を幸せにすることができるかなとは考えたんです。

岸見 自分ができること、自分にしかできないことを見つけていくというのは、すごく大事なことですよ。話は少し変わるけれど、料理って見た目が重要ですよね? プロ意識の高い料理人はそれをすごく気にするというか、要するにお腹の中に入ったら一緒だからという世界ではないですよね。だから一見添え物のように見えたとしても、見た目を引き締める美しい緑のパセリがない料理なんてありえないんですよ。あなたが必要なのです。

パセリ そ、そうですか(私、口説かれてるのかしら……)。

岸見 気付かない人は気付かないかもしれない。でも、気付かないのであれば「気付かない存在であるということが使命」なのだと思います。目立った人とか、大きな声を出す人とか、積極的な人だけが優れているわけじゃない。目立たないから多くの人は気付かないんだけど、いることですでに役に立てている、という感覚をもっと持ったほうがいい。あれやこれやを成し遂げたから価値があると思っている人がいますが、食べられないことすらあるけれど料理には欠かせない存在……それがパセリの価値であると思ってほしい。その価値を認めてくれる人は、今は周りにいないかもしれないけど、必ずどこかにいるはずです。万が一そういう人がいなかったとしても、自ら自分に価値があると思えるようにしたほうがいい。

パセリ 私、ずっとジャガイモになるための努力をしていたんですけど、そんなの無意味だったんですね。

編集者 ジャガイモだって、どんな料理にも必要なわけではありませんからね。むしろパセリのほうが使われる頻度が高いかもしれないですよ。

パセリ そうですね! 世の中の料理に一番貢献してるのは私かもしれないわ!