大企業のマーケターは、インターネットをますます重要視する一方で、コントロールできないメディアとの恐怖感を抱いている。だから取り組む姿勢もどこか恐る恐るで、大胆なことには手が出せない企業が多い。
しかも、顧客との接点はインターネットだけではなく、他のメディアとの組み合わせが求められる。怖さと複雑さのダブルパンチだ。
だが、この二重苦を乗り越えて早くも成功例を作り上げた企業がある。ユニリーバのDove(ダヴ)である。
2006年秋にユニリーバが動画投稿サイトYouTubeにアップしたCM「Evolution」 ――普通の女性が美女に変身するという75秒のビデオ――は、誰もの想像をはるかに超える反響を得た。YouTubeへの公開から1カ月で170万回以上(2007年12月までに約550万回、2008年8月現在で730万回以上)も視聴され、メジャーなTV番組でも取り上げられた。Doveのキャンペーン・サイトである「CompaignforRealBeauty」へのトラフィックは8000%も増加。サーバーが何者かに攻撃されているのかと錯覚するほどの盛り上がりだった。
リアルビューティ・サイトへの誘導効果は、2006年のスーパーボウルのCMの3倍以上にも達したという。スーパーボウルのCMは、30秒で250万ドル(約2億5千万円:簡素化のため$1=100円で計算)もの値が付いているとも言われる。その化け物CMを、サイトへのアクセス誘導で大幅に上回ったのは、驚異の一言に尽きる。YouTubeへの掲載はタダだから投資効率は抜群だ。
このキャンペーンの間、Doveは石鹸、ヘアケア、スキンケアの各分野で売上を伸ばし、またリピート顧客率も増やしている。米国の3世帯に一つはDoveの顧客となったほどだ。ビデオやサイトの視聴、そして話題だけでなく、実利に結びついた稀な成功例である。
なお、これを単なる投稿ビデオの成功ということで片付けることはできない。これだけの成果をあげたのには、それなりの理由があるからだ。
成功の理由1
美の再定義という難題に挑む
YouTubeにCMビデオを出す例は多々ある。しかし、目新しさから新聞に報じられても、話題性止まりで顧客とのコミュニケーションにはあまり結びついていない。
では、何がDoveの成功の背景にあるのか。