「これでゼネラル・モーターズ(GM)の破綻は避けられなくなった」。多くの自動車業界関係者が懸念する。クライスラーは4月30日、連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を申請、法的整理に追い込まれた。

 今回のクライスラーの破綻はGMの“モルモット”、つまり予行演習といえる。昨年末に比べ、政府の部品業界向け支援プログラムなどのセーフティネットが整備され、倒産の混乱リスクが格段に減るなか、「前例が生まれた以上、事前調整型の倒産は現実味を帯びてきた」(業界筋)。

 とはいえ、GMの債務は270億ドルとクライスラーの4倍近く、債権者の数もクライスラーの46に対し、数千にも上る。さらに、GMに課せられた条件は、社債の株式化による債務の大幅削減(場合によっては9割超)について、9割以上の社債権者から同意を得るという厳しいもので障壁は高い。

 はたして、GMが破綻した場合の影響はいかほどなのだろうか。みずほ証券の寺澤聡子シニアクレジットアナリストは「GM倒産の推定損失額は、約338億~458億ドル。むしろ試算できない実体経済への影響のほうが心配」と指摘する。GMはいまだ米国で鉄鋼、ゴム、レアメタルなどの最大級の購入者であり、「存在感や影響力でまったく特別な存在」(志賀俊之・日産自動車COO)。

 部品メーカーや債権者、ディーラーの大半がクライスラーとも重複し、GMが破綻すれば、連鎖倒産などのリスクは増す。現在のところ、さほど目立っていないクライスラー破綻の影響さえも今後は表面化する懸念がある。

 クライスラーは5月4日から30~60日の再生期間中、22ヵ所すべての工場が停止。折しも、GMも5~7月に、13工場で最大9週間閉鎖、両社の工場停止はほぼ同時期となる。部品メーカーはいっそうの受注減が避けられない。オバマ政権は“パンドラの箱”を開けてしまった可能性も否定できない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)