欧米では味噌ブーム
さらに今、海外は味噌ブームなので、スーパーに行ってもレストランに行っても、味噌を使った食材や料理に出会います。欧米では最近になって発酵食品の良さがようやく理解されるようになったようで、ヘルシーだというイメージで人気があります。
「ミソドレッシング」なんて書いてあるのを買って味をみると、1%も入ってないんじゃないかという名ばかりのものもありますが、いろいろな味噌の使い方に、私も驚かされることがあります。例えばニューヨークで経験したんですが、ワタリガニが入っていて、一味唐辛子の微細粉末でピリ辛の味付けがしてある西京味噌を使ったスープに出会いました。これには「日本式ゴージャスポタージュスープじゃないか!」と感動しました。
また、イギリスにはプレタ・マンジェというサンドイッチのチェーンがあるのですが、そこでは味噌スープがメニューにあって、サンドイッチと味噌汁が定番の組合せになっています。ファストカジュアルなお店で味噌汁を出すところがどんどん増えています。また、私が感激したのは、itsuというお店の「ダイナマイト」と名付けられた味噌汁でした。スパイシーと書いてあり何だろうと思って頼んでみたら、とてもおいしいトムヤムスープに味噌が溶いてあるんです。海外の人はいろんなことを考えるな、と感心しました。
――海外でそれだけブームということは、日本からの味噌の輸出も増えていますか?
この数年、毎年10%ずつ伸びています。日本食全体が伸びていますので。醤油はかなり以前から海外での現地生産が行われていますが、味噌の生産は圧倒的に日本が強いのです。中国や北米に工場はあるようですが……。海外生産ではスケールメリットが出ないと高い設備投資になってしまうことに加え、日本と同じ味の味噌がつくれないケースがあります。同じ日本国内でさえ土地が変わるとダメな場合もあるくらいです。
当社の創業の地は長野県の諏訪郡ですが、父の代に60キロほど離れた上伊那郡飯島町に仕込み関係の設備を移しました。機械・設備が整い、これで大丈夫となったのですが、同じ人がつくっているのに同じ味にならず、2年間ぐらいたいへん苦労しました。そこで父が言うには「住んでる菌が違うんだ」と。父親は、諏訪に残っていた味噌を新工場の敷地のあちこちに埋めていましたよ。私はすべて菌が原因とは思いませんが、一部はそうだと思います。
あとは水ですね。なるべく鉄分を含まない軟水がいいのです。私どもが使っているのは工場の敷地から採取している地下水で、そのままミネラルウォーターの商売ができるくらいの水です。水道水は一切使っていません。