「景気回復、この道しかない」。安倍首相は自民党の政権公約2014の表紙に書いた。総選挙の争点はアべノミクスだという。四半期GDPは二期連続マイナス。いまや「冷めたピザ」でしかないアベノミクスだが、そんなものしか選挙も売り物はないのか。
いや違う。実績なら集団的自衛権行使の閣議決定や秘密保護法がある。やりそこなったが憲法96条の改正もしたかった。これからは原発再稼働や普天間基地の辺野古移転だ。イスラム国攻撃のお手伝いや憲法改正も視野にあるだろう。意欲を燃やす政策はいろいろある。が胸張って国民に示せない。そこに安倍政治の本質がある。
本当の争点はアベノミクスではない。前面に出さない政策こそ総選挙の争点なのだ。
実質賃金は16ヵ月マイナスなのに……
総選挙を伝えるNHKは「アベノミクスの評価が最大の争点となる総選挙」と冒頭で必ず言う。公共放送だから首相の言い分をなぞるのか。2日の公示の日、読売も夕刊で「アベノミクス継続問う」と打った。朝日は「安倍政権2年評価焦点」。毎日「安倍政治を問う」、東京「安倍政治の2年審判」の見出しだった。
同じ夕刊に厚労省が同日発表した10月の勤労統計調査の速報が載った。読売は「給与8か月連続増」と見出しに打った。脇に「実質賃金は16か月マイナス」。名目給与は昨年10月に比べ0.5%上がったが、物価上昇を加味した実質賃金は同2.8%も下がっている。給与所得者にどちらが大事かは明らかだが、読売は名目賃金が0.5%上がったことを「アベノミクス継続問う」という一面記事の横に飾った。
4月から消費税が3%上がった。これが景気の足を引っ張った、というのが政権や読売の説明だ。日銀によると消費税3%が物価に及ぼす影響は2%程度だ。名目賃金が0.5%上がったのに実質賃金が2.8%下がったということは、3.3%の物価上昇があった、ということだ。つまり消費税以外に1.3%も通貨の価値が目減りしている。
日銀マネーをじゃんじゃん刷ってインフレを起こす、というのがアベノミクスの狙いである。1.3%も物価が上がったのは成果かもしれないが、賃金が追い付かないからみな困っている。
その一方で、建築労働者の賃金は急騰した。5.5兆円もの補正予算を組んで公共事業を増やしたため急な発注で人件費や資材費が高騰した。建設現場は過熱しているのに、日本経済全体としては湿ったままで賃金は上がらない。