遂に幕を開けた「責任を果たす新時代」で人々はオバマに何を期待しているのだろうか。ごく普通のアメリカ人はどんな思いで新大統領を迎えたのだろうか。最終的にワシントンに集まった群衆は200万人以上と言われる。

 ワシントンの玄関口の一つのユニオン・ステーションでは、あまりの混雑に身動きできなくなった。そんな状況なのに誰もいらいらしていない。それどころか仕方がないといった感じで苦笑しながらも協力しあっている。どこもかしこも幸せそうな顔をした人々で満ち溢れていた。アメリカは今、未曾有の経済危機に直面している。それなのに人々の表情は決して暗くはない。オバマがいるからきっと大丈夫さ。彼らが心の中でそう言っているように私には思えた。

 陽気な感じの黒人たちが次々とスーツケースを引きずりながらやってくる。まるで全米中の黒人がオバマの就任を祝うために一斉にワシントンに集まっているかのようだった。それくらい黒人の比率が高い。オバマのことを語る黒人たちはとても嬉しげで誇らし気だった。黒人たちにとって、オバマはYes We Canではなく、もはやYes We Didなのだ。

 地下鉄の中で出会った黒人女性は、オバマの写真で飾り立てられた素敵な鞄を持っていた。思わず「その鞄、素敵ですね」と声をかけると、「これは私が作った鞄なのよ」と教えてくれた。彼女は、新大統領の誕生をまるで自分の息子のことのように喜んでいる。そんな感じがした。居合わせた白人女性の乗客も「素敵ね」と彼女に声をかける。それを見ていた他の乗客も笑顔になり、無機質で冷たい感じだった地下鉄内が一瞬あたたかい空気に包まれた。オバマはそんな人々のつながりを結びなおす存在なのだ。

 フード・バンクという貧しい人々に食べ物を届ける活動をしていた車椅子の黒人男性とラティーノの女性がいた。どんな活動をしているのか気になったので声をかけてみた。そして、彼らにとってオバマはどんな存在なのかを聞いてみた。

 黒人男性は、「オバマはみんなを人種や様々な問題を超えて一つにしてくれる存在だ」と語ってくれた。そして、ピースマークがついた鞄を持った女性は、「オバマは世界を再び仲直りさせてくれる人。再びみんなの心を導いて一つにしてくれる。ラティーノもオバマを支持している」と答えてくれた。彼らの真摯な目がとても綺麗だった。オバマはいろいろな人々の支持を集めているのと同時に、いろいろな人々に希望を与えているのだ。