経営×ソーシャル
おもてなしで飯が食えるか?
【第5回】 2014年12月10日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

マーケティングが苦手な「おもてなし」の扱い方【前編】

マーケティングの7Pを活かす

 先ほどは、実際にサービスを利用してくれた顧客にどうやって便益を感じてもらうかの話でしたが、ビジネスを拡げていくには、まだ利用経験のない人にも自社のおもてなしの魅力を伝えて、来店につなげる必要があります。

 しかしながら、おもてなしのような無形の商材を不特定多数の潜在顧客に向けて訴求するのは、なかなか難しいものです。例えば、自社のおもてなしの良さを訴求する広告を作ることを想定してみてください。これは無形サービス全般に当てはまることですが、目に見える形がないので、提供物自体の映像や画像が広告に使えません。

 しかも、本コラムの第1回に記した通り、おもてなしは予め内容が定まっておらず、顧客の要望やその時点での提供側の都合などによって、都度内容が変わります。従って、「私共のおもてなしはこういう内容です」と明言するのが極めて難しいのです。もちろん典型的なケースを示すことはできるでしょうが、それでは「お客様それぞれの状況を察して、臨機応変に何をして差し上げるかを決める」というおもてなし本来の魅力が半減してしまいます。

 おもてなしが有するこうした無形性や変動性といった特徴に対し、よく語られる処方箋は7Pと呼ばれるアプローチです。伝統的なマーケティングではいわゆる4P(Product、 Price、Place、Promotion)をコントロールすることで顧客に購買を促しますが、これに以下の3つのP(People、Physical Evidence、Process)を加えたのが7Pです。

 おもてなしの世界でも、このアプローチが有効な場合があります。例えば中小企業向けに決算書作成や税務申告の支援をしている株式会社古田土(こだと)経営は、経済産業省が実施した平成25年度の「おもてなし経営企業選」に選出された企業です。同社のウェブサイトからはPeopleやProcess、 Physical Evidenceの要素をうまくマーケティングに使っていることが窺えます。まず代表者の顔写真やメッセージは勿論のこと、クライアント企業の社長が写真と実名入りで登場するなど、人的要素(People)が強く訴求されています。加えて自社の社員教育の手法やわかりやすい決算書作成のノウハウといった、サービス品質を支える仕組み(Process)を積極的に公開しているのも特徴的です。さらには、グラフや図を多用した月次決算書、経営分析の資料例や、クライアントからの御礼の手紙(実物)を公開し、サービスの素晴らしさを物的証拠(Physical Evidence)として見せています。

 一方、従来の4Pの中にも、おもてなしのマーケティングに活用できる手法は残されています。特に、Promotionの一手段であるWOM(Word Of Mouth、いわゆる口コミ)は、嗜好が比較的に通っている人同士の間で交わされ、受け手の信頼度合いも高いので、無形サービスの顧客開拓策として親和性が高いとされています。実際におもてなしに力を入れている企業で、「弊社のサービスをどのようにして知りましたか?」「利用のきっかけは何ですか?」といったアンケートを実施すると、回答のトップ3以内に必ず「友人や家族からの紹介」が入ってきますから、おもてなし企業にとって口コミの影響力は無視できません。


→後編「口コミによるマーケティング」は次週公開予定です。

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


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オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

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