「地球を俯瞰する外交」「積極的平和主義」といった方針を掲げ、外交を展開してきた安倍政権。しかし、隣国で、東アジアの安定を保ち、経済的に国益に直結する深い関係にある中国と韓国とは、歩み寄れぬままであった。憲法改正や集団的自衛権の行使容認など、安全保障政策についてこれまでの政権とは比べ物にならぬ程のこだわりを見せ、政治における数の力で障害を突破しようとしている。安倍政権の外交・安全保障政策をどのように評価したらいいのか。国際政治の専門家である添谷芳秀・慶應義塾大学法学部教授は、安倍政権の外交・安全保障政策に点数をつけるなら、39点という評価であった。
衆議院解散は政権の
長期化を狙ったもの
慶應義塾大学法学部教授。専門は東アジアの政治と安全保障、および日本外交と日本の対外関係。上智大学外国語学部卒、同大学大学院で国際関係論専攻修士課程を修了後、1987年に米国ミシガン大学より国際政治学の博士号(Ph.D.)を取得。現在、日本国際政治学会評議員、アジア政経学会評議員、外務省政策評価アドバイザリーグループメンバー、米国アジア協会国際評議員等。99年に「21世紀日本の構想懇談会」メンバー、2010年に「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の委員を務めた。書著に『日中関係史』(有斐閣、2013年)、『日本の「ミドルパワー」外交』(ちくま新書、2005年)等、英文和文の著書、論文多数。
過去2年間のアベノミクスの成果が争点となっている今回の衆議院議員選挙であるが、まったく盛り上がらない。投票する人は大方選挙戦での議論に関係なく投票先が決まっているようであり、全体的には投票率の低下が懸念される。
それも無理はない。多くの経済学者がいうように、アベノミクスの勝負所は、この2年間の成果ではなく、見通すことが難しい今後数年間、あるいはもっと長期的な日本経済の姿にあるからである。今アベノミクス継続の是非を問われても、多くの国民には判断の仕様がないだろう。
アベノミクスはすでにルビコン川を渡り、後戻りは不可能である。その将来には、当面の困難な構造改革をともなう成長戦略(第三の矢)、中長期的には高インフレの危険性、さらには財政破綻という最悪のシナリオすら待ち受ける。アベノミクスには、失敗すれば日本経済を破綻させ得るほどの破壊力があり、その意味ではここまで来たら成功するしかない。
株価や給料という目先の都合のよい数字の話ではないのである。楽観視できないのに失敗が許されないというやるせない現実の前には、アベノミクス批判の議論にも本質的な重みはない。
安倍晋三氏は、なぜここまで先行き不透明な経済政策を大胆に推し進めるのだろうか。実はそのことは、今回の衆議院解散の真の理由と深い関係にありそうである。
端的にいえば、狙いは政権の長期化であり、保守勢力の拡大である。まだ我々の記憶に新しいが、憲法改正による「戦後レジームからの脱却」を心に秘める安倍氏が、そもそも第二次内閣の発足にあたり経済に焦点を当てたのは、そうした政治的な理由からであった。
そして、今回の衆議院解散も政権の長期化を狙ったものであることは間違いないだろう。自民党が勝てば、来年秋の自民党総裁選挙は無風とり、安倍首相は2018年までのほぼ4年間を手にすることができる。