監督官Aただ、期待頂いても素直に喜べない葛藤もあるのが正直なところです。

田島どんな葛藤でしょう?

監督官Aはい。二つあって、まず、われわれの武器である労働法制が中途半端であること。例えば企業には労働者の労働時間を把握するよう迫るけど、把握する義務って法律には書かれていない。指針だけなので、お尻をたたけないんです。

田島もう一つは?

監督官A監督官の頭数が絶対数として足りない。

監督官B 実動部隊として動く監督官って全国で2000人を切っていますから。組織のてっぺんである霞が関の厚生労働省は不夜城といわれますが、時に現場も同じ。ブラック企業を取り締まるべき職場がブラック企業化している。だから、やるべきところをやり切れない。

監督官C労働者には自分でやれることはやってほしい。これは監督官不足の問題を抜きにしても言っておきたい。監督官が労働問題解決の代行をやってくれるという他人任せでは、自分が求める結果は得られません。だから、労働者に闘う意思があるならばサポートします。

 ある若い労働者がさぼりのぬれぎぬを着せられて給料を払ってもらえないから助けてくれと相談に来たとき、使用者に誤解があるならもう一度自分で説明に行ってはどうかといろいろアドバイスしました。彼は最初こそ怖がっていましたが、自力で給料を受け取ることができました。

田島私も、20代に同じような体験をしました。アルバイトをしていた運転代行会社で無断欠勤扱いされて給料をもらえず、即解雇された。専務の許可をもらって休んだのですが、彼が社長に言い忘れていたんです。

 労基署の監督官に泣き付いたら、「捜査は何カ月もかかるかもしれないから、自分でやってみては」と。助言通りに労基署に相談したことにも触れた内容証明を送ったら、社長から電話がかかってきて「金払っちゃる。労基署にまで駆け込んで怖いやつだ」と白旗を揚げた。これが大人のけんかだと知りました。

 法律は武器になる。そう思って私は法律家の道へ進み、行政書士になりました。自分で声を上げた上で労基署、労働組合、弁護士といった専門家に手伝ってもらうというのが本来のスタンスなんだと思います。

一同 その通り。

田島激務の監督官たちも一労働者としてもっと声を上げては?

一同 その通り、なんでしょうね…。