しかし、「私心」は生きる原動力である
ただ、凡人には「私心」を捨てるのは難しい。
私の場合も、退職を決意した結果として、意図せずして「私心」がなくなっただけです。決して、「私心」そのものが消えたわけではありません。いや、むしろ独立して成功したいという、強い「私心」をもっていました。それは、生きる原動力ですらありました。「私心」とどう向き合えばいいのか……。私は、答えを出せずにいました。
そんなある日、出会ったのが松下幸之助さんの著作『決断の経営』(PHP研究所)です。そして、この本で重要なことに気づきました。
古いエピソードです。松下電器(現パナソニック)創業1年後の1936年、同社は電球の製造販売に踏み切りました。問題となったのは値段。当時、一流として最高値の36銭で売られていたのはT社の電球でした。3流、4流の電球は、その半値以下。松下さんは、なんとか36銭で販売したいと考えて、全国の得意先を回りました。
しかし、「それは松下さんムチャだ」と、ことごとく却下。何の実績もない松下電器の電球を、一流のブランドを確立しているT社の電球と同じ価格で売れるはずがない、3流の値段ならなんとか、というわけです。