引き継ぐ人がいないから、会社を売却したい──後継者難に悩む中小企業の経営者にとって、M&Aという選択肢も見えてきた。だが、「売れる会社」作りも、また大変だ。

後継者難なら事業売却?
「売れる会社」作りもまた大変

 事業を売却したい中小企業経営者にとってM&A(合併・買収)やEBO(従業員による買収)など選択肢は増えている。特にM&Aは、大企業以外でも珍しいものではなくなってきた。

 だが、事業承継のツールとして考えるとき、M&Aは一般的とは言いにくい。自分の会社を売りたいと思う経営者より、他人が買いたいと考える会社の方が圧倒的に少ないからだ。

 もちろん、「売れる会社」はある。

 条件その1は、特色があること。長い歴史や、評価の確立したブランドといった「のれん」を持っていれば強いし、金を生む特許など特別な技術、官公庁や大手企業との取引口座などを持っている会社にも魅力がある。

 条件その2は、傷や陰がないこと。買収する側からすれば、たとえ10億円の資産を持つ会社でも、10億円では買えない。従業員の退職金債務、未払い賃金、追徴課税などリスクが多いからだ。買う側は「危なそうなもの」「わからないもの」は買わない。買うにしても、減額を求めてくる。

「売れる会社」作りには
クリーン化&可視化が必須

 そこで重要になるのは、会社のクリーン化と可視化だ。クリーン化でまず大切なのは決算書(財務諸表)。買収する側は損益計算書で、利益がどれくらいの期間、出ているか、その利益は一時的なものか、継続的なものかなどを、まずチェックする。節税が過ぎて赤字にしていたり、“お化粧”のために資産売却で利益を水増ししたりしていると、評価は下がる。

 貸借対照表も同様で、不良資産は、デューディリジェンス(資産査定)で容赦なく削られる。簿価2000万円のゴルフ会員権も時価10万円なら資産額は1990万円減額となるし、何年も回収できていない売掛金はないものと査定される。古い機械ならスクラップ扱い。いい土地を持っていても、担保に入っていれば評価額は減額されるし、古い上物が建っているなら解体費が割り引かれる。

 利益や資産の面だけでなく、就業規則や労働契約などもきちんとしておく必要がある。