まず、経済学用語で言うところの「貨幣錯覚」は存在する。物価上昇と消費税率の引き上げのお蔭で、消費者物価は対前年比2.7%も上がってしまい、さすがに自分の購買力が減少していることを感じている国民(特に中間層勤労者)が多いと推察するが、それでも名目所得が直接減るのでなければ、割合我慢ができると感じている方も多いのではないか。

 名目所得が変わらない場合、物価が年率2%ペースで上昇しては、10年間でおおよそ2割貧しくなる見当なので、これはかなり生活実感に響くだろう。

 一方、実質賃金改善の原資となり得る生産性の向上は、財政や年金の長期的な検証で使われることの多いTFP(全生産要素生産性)の伸び率を見ると、0.5%から1%程度だ。「実質年率1%程度」の調整なら、現実的に「良い加減」なのではないかと思われる。

 もう1つ、2004年の年金改正の特徴は、年金の条件改定を逐一国会で審議せずに、一定の計算方式に基づいて、行政側の決定でできるようになっていることだ。これは、政治の調整能力を信用していないということの表れだが、過去の年金や税の制度改正の様子を振り返り、現在の国会議員の能力と個人的な利害関係を考えると、「信用する方がおかしい」と言っていいだろう。

 つまり、日本の政治と政府を合わせた利害調整力を考えると、マクロ経済スライド方式のように、インフレに紛れながら実質的な条件を変える形での調整方法が現実的なのだ。

コントロールされた
調整インフレは可能か?

 経済学者がよく言うように、インフレは現金(及びその同等物)の保有に対する課税だ。もちろん、財政支出もインフレに連動するので、財政支出を拡大するに任せていては財政収支は大幅な赤字のままだが、それでも過去のストックベースの財政赤字は実質価値が減価して行く。

 1つの心配は、国債利回りが名目成長率を超えて上昇し、財政への負担となるケースだ。当面は、日銀が国債市場を制圧して国債利回りを抑えることが、同時にデフレ脱却を目指す経済政策として機能しているので、どこまで続けられるか不安な面もあるが、妙に居心地がいい。