昨年度の公的年金の運用損失が約10兆円となったことを受け、舛添要一厚生労働大臣は7月3日の閣議後の会見で「(年金資産の)15分の1か10分の1をファンドにするなど、少しチャレンジしてもいい」と述べたという。この発言は、日本版国家ファンド推進派のある議員さんがメールで教えてくれた記事に載っていた。
大臣が言う「ファンド」が国家ファンド推進派の想定するヘッジファンドや投資ファンドのようなものなら、これは運用業界にとって巨大なビジネスだ。積立金が140兆円、市場運用部分が90兆円だから、どちらを基準にしても数兆円から10兆円近い金額になる、はっきり言って金融版の公共事業だ。運用会社は手数料と莫大な成功報酬を取るが、失敗した場合の負担は国民だ。しかも、余裕のある状態ではなく、累積損失をリスクを取って取り返そうというのだから筋が悪い。「チャレンジ」などと綺麗に言い換えても、メインレースの損を最終レースの穴馬券で取り返そうとする競馬ファンと本質的に大差はない。
ヘッジファンドなら自分の儲け分を損してくれる人が市場のどこかにいなければならない。投資ファンドなら大きく儲かる投資機会を見つけなければならない。いずれも、10兆円に見合う規模で虫のいい投資機会を見つけるのは無理だ。運用会社のカモ(上客!)になるだけだろう。
舛添大臣は昨年度の損失について「10年単位で見ると株式投資は悪いことではない」とも述べた。確かに株式投資自体は悪くないが、昨年度までの損が長い目で見るとリカバーされるはずだから気にしなくてもいいという意味なら、これは正しくない。負けは負けと現実を認めるべきで、そこがスタート地点だ。