時計大手のセイコーホールディングスが危機の最中にある。2期連続の最終赤字見通しという業績の悪化に加え、子会社である銀座・和光の不透明な経営実態に従業員や株主から批判が噴出。労働組合は株主代表訴訟にまで持ち込む構えだ。取引銀行の警戒感も高まる。世界の「セイコー」で何が起きているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
3月5日付で「請求書」と記された文書がセイコーホールディングス(SHD)監査役に送付された。差出人は、SHD株式を1000株保有する事業会社の労働組合「セイコークロック・プレシジョン労働組合」である。
現経営陣5人の経営責任を追及、取締役として注意義務を怠ったとして、総額40億円の損害賠償を求める訴訟を起こす旨、提起したものだ。会社法に基づき、監査役は、60日以内に訴訟を行うかどうか判断する。監査役が提訴しない場合は、組合が株主代表訴訟を起こす方針だ。
組合員約2万3000人を擁する「セイコーグループユニオン」が前面に立つ。中村昇造・同組合長は「経営者にしっかりしてもらいたい。外部に信用してもらえる会社に早く戻したい」と話す。
請求書では、SHD業績悪化の原因に加え、子会社の不透明さが明らかにされ、ガバナンス崩壊に強い危機感が表明されている。
まず、セイコークロックについて触れられる。「2006年から現在までわずか4年間で社長が5人も入れ替わり、経営方針・事業方針が一貫せず、事業存続が危ぶまれている」。そして、「50億円を超える債務超過に陥っているのは明らかだ」と言及する。
銀座4丁目、SEIKOの看板の横に立つ和光本館。3月4日、社外の全日本金属情報機器労働組合の抗議活動に、あたりは騒然とした |
銀座・和光はより深刻である。SHD取締役を兼ねる和光代表取締役に対し、「(取締役の)パワーハラスメントは、SHDおよび和光の社内では公然の事実であり、企業内のコンプライアンスやモラルは低下し、企業倫理は機能不全に陥っている」と断じる。とりわけ、「人事施策・経理処理に関してきわめて不透明で閉鎖的」と経営の体をなしていない点を主張する。
和光について詳細は後述しよう。個別業績は開示されていないが、赤字続きで債務超過に陥っていると見られる。それでも、和光の新館工事など多額の投資がなされる。労組は「和光の放漫経営と隠された経理運営は、SHDに多大な損害を与えている」と訴える。