写真 加藤昌人 |
パリは夜が美しい。クラシックなランタンに照らされる石畳の小道も、歴史的建造物のライトアップも、最先端の技術と緻密な計算が施された人工的な照明でありながら、文化や歴史への敬愛が込められていて、どこかぬくもりを感じる。パリが「ヴィル・ド・ルミエール(光の街)」という異名を持つことを、その美しい人は教えてくれた。名前は明理(あかり)。照明デザイナーのパイオニアである母、石井幹子が名づけた。ミドルネームのリーサは母の師であり、フィンランドを代表する照明デザイナーから譲り受けた。光に導かれるように、同じ世界に生きることを選んだ。
1999年、留学先のパリを拠点に選び、ノートル・ダム大聖堂のライトアップのリニューアルにかかわった。2001年にはチーフデザイナーに抜てきされる。「その名のとおり聖母マリアの温かな慈愛と、パリの基点としての凛とした佇まいの両方を表現したかった」。厳寒の冬空に繰り返した限りない数の実験と調整。翌年のクリスマスイブの前日、それは闇の中で「翼を広げた」。月の光に似た冷たい白に、陽の光のようなゴールドが浮かび上がるのは、緻密に選び抜かれて配置された光源のせいだ。光を操りながら見せているのは、夜である。
04年に会社設立、世界中からオファーが絶えない。1年の3分の1ずつをパリと東京で過ごし「地下鉄に乗るように飛行機に乗る」。プロフェッショナルとしての自負が多忙な毎日を支える。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)
石井リーサ明理(Akari-Lisa Ishii)●照明デザイナー 1971年生まれ。東京藝術大学美術学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。ロサンゼルス、パリにてデザインを学び、ニューヨーク、東京、パリの照明デザイン事務所を経て、2004年「I.C.O.N」設立。