構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティングの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載第4回は、前回に引き続き、アプライド マテリアルズと経営統合し、エタリスとして出発する東京エレクトロンの代表取締役会長兼社長の東哲郎氏に、異なる企業文化を融合させ、新たな成長へと導くための方策について聞く。

「顧客満足」と「利益」は
最適化するのではなく最大化する

松江 お客さまとの関係について、御社ならではの深い関係をつくられています。お客さまとの関係づくりで、何か意識されてることはありますか?

 今回、アプライド マテリアルズと経営統合について議論していて感じたのは、私たちはお客さまから、ある意味で「絶対的信頼」を得ているといった点です。過去に、受託生産(EMS)を請け負うので発注しないか、という話がきたことがあったんです。半導体製造ではファウンドリがあるのだから、装置でもそういうのがあってもいいだろう、と。

東哲郎(ひがし・てつろう)
東京エレクトロン代表取締役会長兼社長、
最高経営責任者(CEO)
東京都出身。1973年(昭和48年)国際基督教大学卒業、1977年(昭和52年)東京都立大学大学院修了、東京エレクトロン入社。90年取締役、96年社長、2003年6月から現職。

 そのときに主要なお客さまに、「こんな話を持ち掛けられているのだけど、どう思いますか?」と訊いたんです。そうしたら「とんでもないことだ」と言われました。「これまで開発から装置納入、サービスなど長い付き合いがある。また、私たちのフィードバックを装置開発に取り入れている。だから東京エレクトロンが納める装置はものすごい品質が高い。それが東京エレクトロンのブランドなんだよ」と。

 つまりそういう『絶対的信頼』みたいなものが、弊社のブランドなんだと言われたんですよね。お客さまとの絶対的な信頼関係というものを常に意識していくことが大事だと改めて感じましたね。

 そうした関係の中で常に議論になるのは、お客さまとのトラブルがあったときの対応ですよね。私たちは、たとえトラブル対応が利益につながらないものであっても、短期的な視点ではなく、中期的にお客さまとの関係がどうなるかと考えながらやっていく。そうすると、断るにしても絶対的な信頼は失わない。そういう心がけひとつが大事ですね。

 この前も社内で「お客さまの満足」と「利益」はワンセットでペアだという議論をしたんです。そこで顧客満足と利益のどっちを取るかとなったとき、「利益をオプティマイズ(最適化)せざるを得ないじゃないか」というような話が出て、その目的のためにプライオリティを決めていこうという話になりかけました。

 私はその「オプティマイズ」という言葉があまり好きじゃなくてね。「オプティマイズ」はサプライヤー側の論理ですから。