半導体産業しかり、AV機器産業しかり、世界における日本のエレクトロニクス産業の低迷が長期間に渡って続いている。かつては貿易摩擦の火種になるほど、日系企業のシェアは高く、コストパフォーマンスでも海外製品の追随を許さないような勢いがあったが、今となっては「遠い昔の出来事」になりつつある。日系企業の何が問題なのか、今後どのような対策を講じるべきなのか。各社には各様の事情が存在するし、半導体やAV機器を一括りに論じることが乱暴なのは百も承知だが、共通しているポイントに焦点を絞りながら、筆者なりの提言を紹介させていただく。
衰退の原因は韓国・台湾を
侮っていたからなのか?
IHSグローバル主席アナリスト。1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。
1980年代後半、日系半導体メーカーの世界シェアは50%を超えていた。半導体事業は設計にも製造にも職人芸が要求された時代において、大手日系企業は自前で大量の技術者を揃え、徹底的な社内教育を施し、高品質で低価格な半導体を量産することに成功した。
必要な時に大型投資を実行する企業体力もあり、当時の大手日系企業の強みを如何なく発揮していたのである。
それが1990年代に突入すると、サムスン電子やLGエレクトロニクスの躍進が目立つようになり、日系各社のシェアを脅かし始めた。そして90年代後半には、DRAM事業から撤退を余儀なくされる日系企業が相次ぐことになる。
日系企業が衰退し始めたのは、こうした韓国や台湾の新興企業の実力を侮っていたからだ、という声がよく聞かれる。確かにそれは要因の1つと言えそうだが、正確には「日系各社が自分たちの優位性をビジネスに反映できなかった」ことが問題だったのではないだろうか。
半導体産業は、市場規模や技術レベルのステップアップに伴い、設計ツールの進化や自動化、製造技術の標準化なども推進され、設計にも製造にもかつての職人芸が不要となりつつあった。つまり職人芸による付加価値が追求しにくくなってきたのである。
付加価値を主張できない部分に従来通り職人芸を駆使していれば、市場でのコスト競争には勝てない。この変化に対応できなかった日系各社がシェアの低下を招いたのだ。韓国企業や台湾企業を侮ったというより、環境の変化に対応できずに自滅した結果と言うほうが正確だろう。