構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載第1回は、ヤマトホールディングスの木川社長に、創業100年を前に変革を続けるヤマトグループの「挑戦」し続けるDNAについて聞いた。

【経営の時間軸】
危機感がイノベーションにつながった

松江 木川さんが持続的成長に向けてどういう時間軸で経営されておられるのかお聞きしたく、本日はこのような場を作っていただいたのですが、まずは御社の成長戦略を描かれた背景をお聞かせ願えますでしょうか。

木川 眞(きがわ・まこと)
ヤマトホールディングス代表取締役社長 社長執行役員。1973年、富士銀行(現:みずほフィナンシャルグループ)に入行、2004年みずほコーポレート銀行(現:みずほ銀行)常務取締役に就任した後、05年3月に退社。同年4月にヤマト運輸入社、同社常務取締役、ヤマトホールディングス代表取締役常務、ヤマト運輸代表取締役社長を歴任し、11年4月より現職。

木川 成長戦略を考えた理由は、簡単に言うと「宅急便一本だけでやっている時代じゃなくなってきた」ということです。それだけでは成長力がなくなるので、思い切って成長戦略を描き直そうとしました。そもそもの流れは、私の前の有富慶二さん(現ヤマトホールディングス特別顧問)とか瀬戸薫さん(現ヤマトホールディングス会長)が作っていました。私がみずほコーポレート銀行から来たときに、有富さんに言われたことは、「5年後、10年後には、成長力がなくなって、うちは潰れているかもわかりませんよ」という先行きに対する危機感。長期レンジで新しい成長の軌道を見つけることをいい意味で煽っていたのです。

 私は、過去のしがらみがないなかで、過去の良さ、ヤマト流のDNAを生かしながら新しい成長戦略を具体的に描こうとした。その点でずっとヤマトグループにいる人より、やりやすかったかもしれません。でも当社のすごいところは、外から来た私にやらせてしまうところです。

松江 成長戦略を描く時にはどれくらい先の時間軸をイメージされておられますか、具体的には、5年、10年ぐらい先を見ながらという感じでイメージされるのでしょうか。

木川 成長のための投資や、今後の成長戦略は、かなり長い時間軸で見ています。実際は5年ではなく、やはり10年単位で考えました。しかもそれは単に10年というよりは、それ以降も見据えて考える必要がある。われわれのようなネットワーク産業はそもそも投資回収に20年、どんなに短く見積もっても10年以上はかかります。メーカーさんの場合は5年以内で投資回収が完了しなくてはいけないといいますが、われわれは5年以内では抜本的な改革はできない。ネットワークをつくり変えるとなると、やはり20年ぐらい先までを読みながらになってくるでしょうね。