中国がかつての天安門事件を清算し、民主化することは、米国にとって必ずしもよいことではない?
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「中国で稼いで中国を傷つける」
米国企業を牽制する中国の思惑

「我々が絶対に許すことができないのは、中国で稼ぎつつ、中国を傷つけることだ」

 2014年9月10日、中国天津市で開催されたサマーダボス会議に出席した魯〓国家インターネット情報弁公室主任(閣僚級、〓の文字は火へんに韋)が、外国IT企業の中国市場での状況、特に中国政府による独占禁止法関連の調査に話が及んだ際にこう言及した。

 魯主任と共演していたのは、米クアルコム社のCEO、ポール・ジェイコブス氏だった。ジェイコブス氏が自社に対する中国政府の独禁法調査や多額の罰金に対して不満を漏らしたのを、「中国政府のインターネット上の管理はボトムライン管理(中国語で“底線管理”――筆者注)だ」と主張する魯主任が牽制したのだ。

 “ボトムライン管理”とは、「中国の国家利益と消費者の利益を守る全ての企業が中国市場に入ってくることを歓迎する」というものだという。魯主任は2013年度におけるクアルコム社の営業収入248.7億ドルのうち、中国市場における収入が123億元(49%)に達することを引用しつつ、冒頭の発言を放ったのである。

 ボトムライン管理――。

 最近になって始まったことではない。中国共産党政治においては随時・随所で見受けられる普遍的現象であり、内政・外交双方向での戦略を象徴している。

 内政では、中国共産党による支配やイデオロギーに根本から異議を唱える知識人に対する監視・拘束・封殺などが挙げられる。外交では、中国の国益、特に核心的利益を尊重しない外国指導者とは面談を拒否したり、徹底批判することなどが挙げられる。

 要するに、中国共産党が掲げる利益や面子を潰す輩に対しては徹底的に批判し、追い込み、締め出すという一貫したロジックである。本連載の核心的テーマである中国民主化という問題を考察していく上でも、このロジックが大前提になる。

 先日、ワシントンDCで中国政府を代表して米中サイバーセキュリティ交渉に参加してきた中堅官僚と、話をする機会があった。米中間のサイバーセキュリティ問題における相互不信構造の背景と解釈がメインテーマであったが、話が米国IT企業の中国市場における活動状況に及ぶと、これまで冷静沈着に論を展開していた同官は、感情的になって米国企業に対する不満をぶちまけた。