(4)58歳、制約からの解放で生まれた音楽の楽園
ヨーゼフ・ハイドン「交響曲集ロンドン・セット(第93番~第104番)」

 ハイドンは宮廷音楽家として、30年と長くドイツ貴族エステルハージー侯爵家に仕えました。しかし、彼の音楽に理解を示し、支援してきた当主ニコラウス候が死去すると状況は一変します。

 後継のアントン候は全く音楽に関心を示さず、長年勤めたハイドンに暇を出します。住み慣れた宮廷を辞すハイドンは58歳。若かりしモーツァルトやベートヴェンにレッスンを与えるほどに功成り名を遂げていました。年金も頂戴し、現役を引退して悠々自適の年頃でしたが、ハイドンにしてみれば、やり残した仕事はあったのです。

 そこでハイドンは、興行主ザロモンの強い勧めもあって、新天地ロンドンに赴きます。1791年から5年間、欧州最大の都市ロンドンに滞在し、刺激を受けます。

 宮廷に所属しないフリーランスになって得た最大のものは自由でした。“雇用主の耳に馴染む音楽”という制約からの解放により、ハイドンは熟練の技法を駆使して、素朴な耳の聴衆に対して音楽の真髄を伝えます。美しい旋律と明快な形式にスパイスを加味した音楽の楽園が生まれます。

ハイドン

「軍隊行」「時計」「驚愕」「太鼓連打」など楽しい副題もあり、ロンドンっ子はハイドンに魅了され、ハイドンも創造の本能が掻き立てられます。作曲家と聴衆の間に、不思議な波動が存在しました。

 ロンドン・セットは、交響曲というジャンルが確立した時代の象徴です。ユージン・ヨッフム盤(写真)がお勧めです。

(音楽愛好家・小栗勘太郎)