僕らがこのようなモチベーションの構造を維持するためには、魅力的で正しい事業のコンセプトが前提になるのはもちろんである。世の中を豊かにすると思えるテーマと仕事をつくり、それによって、提供者である僕らと受け手であるお客さんがいい関係を築いていくこと。それが維持できなくなったときには、僕らのモチベーションのすべては壊れていってしまうだろう。

 また、「今自分がこれをやっていることは、先々に向けて意味があるんだ」という状況も大事だ。一見、僕らの仕事はツブシの利かない偏った仕事じゃないかと思われることがあるようだ。これが実はそうでもない。東京R不動産のプレーヤーの仕事は、基本的には提案型の営業であり、これは起業家の多くが若いときに経験する職種だ。恐らく、技や知恵や情報の価値を人に最適な形で伝え、状況をマネジメントして成果につなげるということは、ビジネスの基本であり本質だということだろう。

 また、不動産というのは、実は多くの業種にダイレクトに関わっている。飲食業であろうと小売業であろうとサービス業であろうと、場所と空間はとても重要な要素になる。大量の物件を見て、多様な人々の住宅や商売のためのニーズについてやり取りをしていると、不動産センスは当然磨かれる。自分の資産運用上も、数千万円のロスやトクをするための目利き力が得られたりもする。

 さらに東京R不動産の場合、感度の高いクリエイターコミュニティとたくさんつながれるということもある。そして、個人プレーヤーとしてのマインドを持って働いていると、自分の商売をやる・個人でやっていく、という感覚も身についていく。

 自分で道を切り開く力がある人にとっては、なかなか悪くない仕事なのだ。今の時代、一見ツブシが利きそうに見える仕事のほとんどが、20年後には必要なくなる仕事だったりする。そのことはしっかり意識していたい。(第4回に続く)


著者紹介

理想はトータルフットボール?<br />日本一面白い不動産屋のユニークな働き方。
■馬場正尊(ばば・まさたか)写真左
Open A代表/東北芸術工科大学准教授/「東京R不動産」ディレクター
1968年佐賀県生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂に4年間勤務後、早稲田大学博士課程に復学、この時期に雑誌『A』の編集長を経験。2003年に設計事務所Open Aを設立、ほぼ同時に「東京R不動産」を吉里、林らと始める。著書に、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、『都市をリノベーション』(NTT出版)など。
■林 厚見(はやし・あつみ)写真真ん中
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営戦略コンサルティングに従事した後、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。不動産ディベロッパーを経て、2004年に吉里裕也と株式会社スピークを設立、現在共同代表。
■吉里裕也(よしざと・ひろや)写真右
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1972年京都生まれ。東京都立大学工学研究科建築学専攻修了。バックパッカーとして世界を旅した後、株式会社スペースデザイン入社。リクルート創業者の江副浩正氏の元でディベロップメント事業に従事しビジネスを学ぶ。2003年に独立し「東京R不動産」を馬場とともに立ち上げ、2004年に株式会社スピークを林と共同設立。