今「働き方」が見直されている。個の充実と組織の柔軟さが求められる中で、話題の会社ではどんな働き方をしているのか。東京R不動産は『だから、僕らはこの働き方を選んだ』という本で、フリーエージェント・スタイルをベースとする「働き方3.0」を提唱。一方、人気サイト「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」を運営する東京糸井重里事務所では、「楽しくたって仕事はできる」を共有する。「面白い会社」「変わっている会社」と注目される2つの会社は、「普通の会社」と何が違うのか。これから5回にわたり、東京R不動産の林厚見氏、吉里裕也氏と、ほぼ日の篠田真貴子氏、奥野武範氏の鼎談を掲載していく。
※この記事(2012年2月13日公開)は、東京R不動産がテレビ東京系列「カンブリア宮殿」に出演したことを記念して、再配信しています。
社員一人ひとりが自由と責任を持つ
「フリーランス的集団」と「フリーエージェント集団」
ほぼ日・篠田:『だから、僕らはこの働き方を選んだ』を読んでまず衝撃だったのは、東京R不動産は「会社ではない」ということですね。
東京R不動産・林:そうですね。会社ではなく「東京R不動産」という不動産サイト、つまり一つのメディアの名前です。「東京R不動産」を、会社にしたほうがいいかどうかという話は、今でもメンバーの中で話には出ます。
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てコロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。「東京R不動産」では主に事業面のマネジメントを担い、他に不動産の開発・再生における事業企画・プロデュース、カフェ・宿の経営などを行う。
サイトがスタートした時は、まず会社をつくろうという発想はなく、仲間が集まってとにかくサイトを始めたというのが実情です。しばらく経って、不動産仲介の仕事をする組織の主体が必要ということになって、コアメンバーが運営する設計事務所や企画会社が共同で東京R不動産を運営するということになりました。
篠田:それが、不動産免許を持ってサイトを運営している「スピーク」と、共同運営でサイトの編集・制作の一部を担う「オープン・エー」なわけですね。ただ、この2つの会社に、東京R不動産のメンバーがみんな雇われた社員として所属しているわけではないんですよね? 東京R不動産を運営するために、それぞれが個人事業主として、東京R不動産という組織にかかわっているということで……。ちょっとイメージしにくい部分はありますが。
林:そうですよね。ほとんどのメンバーは個人事業主なんです。例えば、フリーランスのジャーナリストが集まって、「〇〇新聞」というメディアを運営しているのに近いでしょうか。さらには自分の会社を持っているメンバーが東京R不動産のメンバーとして二足のわらじをはいていたりもします。メンバーはそれぞれ少しずつスタンスが違いながらも、プラットフォームを共有するという形が僕らには合っていて、メリットもあるんです。
ところで、ほぼ日は、東京糸井重里事務所という会社と、「ほぼ日刊イトイ新聞」というメディアだと、どちらが先に誕生したんですか?
米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2008年に東京糸井重里事務所に入社。取締役CFOとして、管理部門、事業計画、経営企画のような仕事を組み立て中。
篠田:会社ですね。東京糸井重里事務所という糸井の個人事務所から始まりました。ただ、ほぼ日も、従来の会社とは違う部分がいろいろあるとは思います。それは、糸井自身がフリーランスの経験が長いからかもしれません。その糸井の働き方が、入社してくるメンバーに伝播して、今の姿の基礎ができたと思います。
簡単に言うと、一般の企業よりも、社員一人ひとりが自分の仕事について決裁する範囲が広く、それを「ほぼ日」に集約しているというか。その点で、フリーランスの仕事のしかたに近いのではないでしょうか。でも、東京R不動産が掲げる「フリーエージェント・スタイル」は、いわゆる「フリーランスの集団」とはまた違うんですよね?
林:通常、フリーエージェントというと、フリーランスとしての個人は独立していて、プロジェクト単位で短期的に集まって終わったら解散するようなイメージですよね。僕らの場合、個人の自由はありながらも、同じチームとして仕事場も共有し、継続的に仕事をしていくので、「社員のようで、社員じゃない」つまり本当に「組織と個人の間」なんです。
スポーツ選手が一番近いたとえになるかなと思いますが、例えばAという野球選手がBというチームと優勝を目指して契約する。チームBが優勝して、選手Aがそこで成績を残すと、契約金にプラス、ボーナスが出ることがある。そこにあるのは、チームBと選手Aの契約ですよね。
僕らの場合も、会社と個人プレーヤーが「契約」している状態なので、報酬も個人の成果に連動するし、個人の裁量も責任も大きいわけですが、選手AはチームBのメンバーと協力してチームの成果も一緒に追求します。プロとしての自立意識と永続的な組織としての一体感を両方持とうという考え方です。