30年前と比較すると、世界の海をパトロールする米軍の艦艇は半減している。社会保障費の増大や、際限のないテロとの戦いに「撤退」ムードを強める米国と、同じように軍縮を続ける欧州。世界の軍事バランスを『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもある、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが分析する。
弱体化する「西」側国家
NATO諸国の軍事の現状とは
現在のアメリカ軍のプレゼンスは近年で最も縮小している。1964年、アメリカ海軍は859隻の艦艇で世界の海をパトロールしていた。それが1984年には557隻になり、現在は289隻しかない。
1984年と2014年の違いの大部分は、冷戦の終結によって説明できる。だが、いまはもはや冷戦終結後の穏やかな時代ではない。たとえオバマ政権がそうであるかのように振る舞っていても、現実は違う。アメリカは世界的なテロの脅威と、さまざまな主要国からの新たな挑戦を突きつけられている。さらに悪いことに、世界におけるアメリカ軍のプレゼンスは、第二次世界大戦前の水準まで縮小している。
ペンタゴンはここ数十年、コストや規模や技術的な可能性を忘れて、質的な軍事的優位を確保することばかり考えてきた。このため海軍は、超ハイテクのシーウルフ級原子力潜水艦を29隻調達するはずが3隻しか調達できなかった。空軍はF22戦闘機650機の調達を計画していたが187機で終わった。宇宙時代に対応するDDG1000ズムウォルト級ミサイル駆逐艦は、32隻を調達する計画だったが、3隻建設しただけで終わった。多用途性を備えたF35戦闘機の開発の遅れ、開発コストの大幅な上昇、そして保守整備上の課題は、ほとんど伝説となっている。
全部合わせると、ペンタゴンは21世紀に入ってからの10年間で中止プロジェクトに460億ドルも費やした。最終的な配備数が少なすぎてその莫大な開発費用を正当化できないか、実戦に効果がないプログラムにも数十億ドルを費やした。
重要なのは、架空の戦争のために超高額・超最先端・超ハイテク兵器を少量確保することではない。より安価だが、応用範囲が広く、長期間使える兵器を大量に補充することだ。言い換えるとF35は減らして、改良したF15やF18を増やすのだ。ペンタゴンは軍事革命ではなく軍備を進化させる重要性を学び直す必要がある。
割れ窓理論に基づく警察活動を機能させるには、地元の協力が必要だ。NATO憲章は、加盟国にGDP比2%以上の軍事支出を義務づけている。
ところが2014年にこの最低ラインをクリアしたのは、アメリカ、イギリス、ギリシャ、エストニアの4ヵ国だけだった。フランスは1.9%、トルコは1.8%、ドイツは1.3%、ポーランドは1.8%、スペインは0.9%どまりだ。冷戦終結時、ドイツは36万人の兵力と、装備の整った12師団を有していた。現在、ドイツのGDPは3兆4000億ドルに上るが、兵力は6万2000人、戦車は225両、攻撃ヘリコプターは40機しかない。