経営×ソーシャル
おもてなしで飯が食えるか?
【最終回】 2015年5月27日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

「おもてなし」はビジネスとして生き残れるのか?

 もう一方の「組織複製の仕組み」はどうでしょうか。星野リゾートの場合、施設を新たに増やすのではなく、主に経営が行き詰っているホテルや旅館の運営を受託し、再生に取り組んでいます。受託先の組織を蘇らせて「星野リゾート」の看板にふさわしい宿に変身させていくノウハウを、独自の定石として蓄積しているのが同社の強みです。一例を挙げると、星野リゾートは再生時に、元からいる従業員をディスカッションの場に呼んで、客観的な顧客データと現場が感じている問題意識とを重ね合わせながら、従業員と一緒に旅館の新コンセプトを導出します。コンセプト策定の過程を共有することで、従業員に対してコンセプト実践への高いモチベーションと、実際の行動の方向付けができると考えられます。

おもてなしを「仕組み化」した上での成功を期待したい

 最近、国内のサービス市場では1000円カットやLCC、低価格ビジネスホテルなど、提供するサービス機能を徹底的に絞り込んで、コストと高品質を両立した「スマート・エクセレンス」と呼ばれる業態がシェアを伸ばしています(※1)。しかしながら市場の中高価格帯のセグメントで、おもてなしに比重を置きながら多拠点展開に成功している例は、まだ多くありません。星野リゾートがチャレンジしてきたように、おもてなしの「仕組み化」に取組み、国内外の市場で規模化する成功事例が続出するのを期待したいものです。

おもてなしの未来を示唆する「ワトソン」採用

 従来のおもてなしは「人が人に提供する」のが原則でしたが、ITや機械設備におもてなし提供を担わせることで、収益化や規模化が容易になる可能性があります。これがマトリクスの右上にあたる「テクノロジーによる代替」のパターンです。先の「仕組み化」では定型的な作業部分をITや機械設備に任せ、非定型のおもてなしは引き続き人が担う形態でしたが、「テクノロジーによる代替」はおもてなし提供までもテクノロジーによって自動化する取り組みです。

 実はこのタイプのおもてなしを、既に私達は無意識のうちに享受しています。例えばアマゾンで買い物をする際、既会員が一度ログインしてしまえば、いちいち住所や決済方法を入力する必要はないですし、ユーザーの購買・検索履歴などから推定して「こんな商品もありますよ」とお薦めまでしてくれます。「ウェブなんだから当たり前」と思うかもしれませんが、これがもし対面販売だったら「よく私の名前や住所を覚えていてくれたなあ」、「自分の好みまで把握して、提案してくれるなんて素晴らしい」と感動モノの接客に思えるはずです。

※1 小野譲司著「スマート・エクセレンス -焦点化と共創を通した顧客戦略-」(一橋ビジネスレビュー2014年春号)

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

「おもてなしで飯が食えるか?」

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