日本企業にとってはまだまだ「遠くて遠い国」南アフリカ。当連載の第1回で紹介した「BOPビジネス」の主戦場であるアフリカのなかで、成長著しいサブサハラ地域の拠点となるこの国は、世界を狙うならもはや避けて通れない国だとも言える。前編(上)に続き今回も、南アフリカの実状をよく知る、前・南アフリカ大使の吉澤裕氏へのインタビューの後編(下)を掲載。南アフリカが持つポテンシャルと、その南アフリカが求めている日本企業のコミットメントについて紹介する。
【聞き手:米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授/プレトリア大学GIBS日本研究センター顧問)】
*インタビューの前編(上)はこちら。
ストライキ、黒人優遇策、治安。
南アの三大リスク
一橋大学イノベーション研究センター教授/プレトリア大学日本研究センター顧問 東京都生まれ。一橋大学社会学部(1977年)、経済学部(1979年)卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(1990年PhD.)。長年、イノベーションを核とした企業戦略、組織の歴史を研究。NPOなどの非営利組織のアドバイザーも数多く務める。また、バングラデシュや南アフリカをはじめとする途上国事情にも精通し、積極的にビジネス/人材交流プロジェクトを推進している。著書に、『創発的破壊 ~未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『企業家の条件』(ダイヤモンド社)など多数。
米倉 それでもまだ多くの日本企業にとって南アは、地政学的、社会的にもリスクがあると感じる国だと言えます。たとえば治安の悪さや、ストライキといった労働問題もよく聞かれます。
そうした負の部分がより大袈裟に採り上げられる側面もあるかもしれませんが、チャンスがあると感じながらも、南ア進出に逡巡する企業はきっと少なくないことでしょう。そうしたリスクに対する考え方についてはいかがでしょうか?
吉澤 多くの日本企業が感じる南アの懸念要素は大きく3つほどあるのではないかと考えています。まず1つ目は、ストライキなどの「労働問題」です。2012年のプラチナ鉱山を皮切りに、南ア最大の輸出産業でもある自動車産業など、さまざまな産業で労働者ストライキが勃発しています。この相次ぐストライキが、南ア経済成長の足かせともなっているのも事実です。
そして2つ目はBEE(Black Economic Empowerment)と言われる「黒人の経済力強化政策」です。アパルトヘイト廃止以降、南アではこの黒人優遇策があらゆるところで行なわれています。
米倉 このBEEは、具体的に言うとどのような内容ですか?