マラリアは、アフリカ諸国でいまでも蔓延しており、5歳以下の子どもが命を落とす大きな原因となっている。世界保健機関(WHO)が中心となってマラリアの撲滅に動いているが、そのなかで大きな役割を果たしているのが住友化学だ。同社のオリセットネット(マラリア防除用長期残効型蚊帳)は、アフリカで広く使われる蚊帳だ。取材を進めると、同社の蚊帳ビジネスは単にマラリアから子どもたちの命を守るだけではないことが分かってきた。同社が得た果実は何だったのか。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

開所式の帰りの車内で
事業拡大を社長に直訴

 遡ること5年半前。2008年2月だった。タンザニアの北部、アルーシャにある住友化学と現地パートナー企業、A to Z社の合弁事業による蚊帳の製造工場の開所式が終わった後だった。

 開所式に訪れていた米倉弘昌・住友化学社長(当時)を送るため、同社で蚊帳ビジネスを担当する水野達男部長(当時)は、車に同乗していた。

「水野君、このビジネスを将来的にどうしたいんだ?」

 こう米倉社長から問われた。水野氏は意を決してこう答えた。

「将来的に、年産2000万張の生産体制まで拡大したいと思っています。アフリカの人たちのために、この事業を育て、もっと雇用を生みたいと思っています」

 そして、アフリカでどれほどマラリアによって尊い命が奪われているか、それに対して蚊帳ビジネスがどれほど貢献できているかを訴えた。当時はまだ生産体制は年産550万張。水野氏は約4倍の規模にまで、事業を拡大してくれと直訴したのだ。

 このときの直訴が、実際にどれほど経営判断に影響したかは分からない。しかし現在、アルーシャの工場では、年産3000万張超の蚊帳の生産体制を組む。同事業の蚊帳は業界シェア24%でトップとなった。広大な工場内の敷地には寮があり、約1800人の従業員とその家族が生活している。