僕が最初にアフリカに行ったのは2011年のこと。南アフリカのプレトリア大学のビジネススクール[GIBS = Gordon Institute of Business Science]で「震災後の日本復興」について学会発表するために数日訪れたにすぎないのだが、それから2年後の2013年、突如アフリカと深い縁を持つことになる。GIBS内に設置された日本研究センターの二代目所長に就任してしまったのだ(現在は、同センターの体制変更により、所長から顧問に就任)。
日本研究センターは、日本と南アフリカの国交樹立100周年を記念し、南アでトヨタ自動車の製造販売を手がけてきたブラッドリー家が中心となった基金により2011年に設立された研究機関だ。日本と南アにおける学術・ビジネス・人的交流のハブとなり、両国の相互理解を深めることを目的としている。
両国の間に横たわる相互理解の薄さ
僕がこの所長を引き受けることになったのは、冒頭に書いたとおり、2011年に招かれて行なった学会発表がきっかけだった。「日本の強靱性」をテーマに日本のポテンシャルについて語ったのだが、逆にそのとき痛感したのは、現地の人が日本のことをほとんど知らないということ。韓国や中国と比べて、南アにおける日本の存在があまりにも薄いという現実に愕然とした。
お互いのことをもっと知れば、日本と南アは絶対に良いパートナーになれるはず――そう思った僕は、その一助を担いたいと所長就任の話を受けることにしたのだ。
だが、相手のことをよく知らないのは、われわれ日本人も同じだ。南アというと、2010年に開催されたFIFAワールドカップが記憶に新しいところだが、多くの日本人が抱く南アの印象といえば、かつての人種隔離政策(アパルトヘイト)や、犯罪率の高い危険な国といったところが大半かもしれない。
しかし一方で、南アは名目GDPで世界33位、アフリカ諸国のなかではナイジェリアに次ぐ経済大国でもある。1人当たりGDPでは85位(6621ドル)と、中国の83位(6958ドル)と大差ない。しかもこのマーケットには、巨大な貧困層に加えて、「ブラック・ダイアモンド」と呼ばれる黒人中間層が急速に伸びている。アフリカに進出するならば、最初にベンチマークすべきマーケットなのだ。