日本企業にとってはまだまだ「遠くて遠い国」南アフリカ。当連載の第1回で紹介した「BOPビジネス」の主戦場であるアフリカのなかで、成長著しいサブサハラ地域の拠点となるこの国は、世界を狙うならもはや避けて通れない国だとも言える。そこで今回は、南アフリカの実状をよく知る、前・南アフリカ大使の吉澤裕氏へのインタビューを掲載。南アフリカが持つポテンシャルと、その南アフリカが求めている日本企業のコミットメントについて紹介する。
【聞き手:米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授/プレトリア大学GIBS日本研究センター顧問)】
遠くて遠い国?
南アフリカのポテンシャルとは?
前・南アフリカ特命全権大使 1951年、東京都生まれ。1974年東京大学法学部卒業後、外務省に入省。国連局人権難民課長、内閣官房内閣審議官を経て、ニューヨーク日本国総領事館、南アフリカ日本大使館に勤務。その後、中国日本大使館公使、シカゴ総領事などを歴任。2012年から南アフリカ特命全権大使に就任し、昨年2014年12月に同職を退任した。
米倉 吉澤大使は2012年から昨年12月までの約3年間、特命全権大使として南アフリカと日本の架け橋としての役割を担ってきました。残念ながら、多くの日本人にとって、南アフリカ(以下、南ア)は地理的にも心理的にもまだまだ「遠くて遠い国」です。
しかし僕は、南アは多くのビジネスチャンスを秘めている国だと考えています。そこで現地の実情をよく知る大使に、南アが持つポテンシャルやリスク、日本企業が果たせる役割や、新たな商機について語っていただきたいと思います。まずは、南アが持つポテンシャルについて教えてください。
吉澤 つい最近まで、南アは名実ともにサブサハラで一番の経済国でした。しかし、現在は二番目。これはナイジェリアのGDPの計算方法が変わったためです。ただ事実上、サブサハラ地域では、南アは圧倒的な経済規模を誇る国であると言えます。
また、南アは非常に鉱物資源にも恵まれています。特に、白金族のプラチナは世界で8割以上の埋蔵量を持ち、また、鉄鉱石生産に重要なマンガンやクロムなども大きな世界シェアを占めています。
さらに、経済規模だけでなく、発展段階においても南アは先進国と近い要素を多く持ちます。南アの企業、たとえば銀行などの金融業、小売などのサービス業、建設業、一部の製造業、鉱業などは非常に発展していて、日本企業が南アに進出してくるうえでも、これら南ア企業との協力というのは大きなポテンシャルがあると言えます。