落札金額2300億円――。今年、不動産業界関係者が最も注目した虎ノ門パストラル(東京都港区)の入札を制したのは森トラストだった。そこに至るには、水面下で参加業者の駆け引きが繰り広げられ、一時は森トラストと森ビルという“兄弟連合”も浮上したほどだ。巨大案件の舞台裏に迫った。
「シェアを半々にして一緒にやらないか」――。国内で今年最大級の不動産案件となった虎ノ門パストラルの入札。森ビルに、森トラストがこんな話を持ちかけたのは、9月27日の最終入札のわずか1ヵ月ほど前のことだった。
もともと同根の森ビル(兄の森稔社長)と森トラスト(弟の森章社長)だが、袂を分かってから不動産開発で両社が組んだことはない。六本木ヒルズに代表されるように開発に10数年の歳月をかける森ビルと、資金効率を重視する森トラストは、「水と油」(不動産関係者)といわれている。
業界関係者が「ありえない」と口を揃える二社の連合構想がなぜ浮上したのか。
じつは、港区には20数年前からパストラルの敷地の一部を通って、桜田通りと江戸見坂を結ぶ道路を敷設する計画がある。これが実現すれば総合設計制度などの適用を受けて、容積率がかさ上げされる可能性が高い。
では、その道路の両端の土地の所有者に注目していただきたい。桜田通り側の土地は森ビルが、江戸見坂側の土地は森トラストが所有しているのだ。両社による共同開発の構想が浮上した最大の理由はここにある。
しかし、こうしたビッグディールでの入札は、ディベロッパー同士が組めば、後々、主導権争いの火種になる可能性がある。とりわけ、2社の過去の歴史を見れば、その危惧は高まる。結局、この構想は幻に終わり、日の目を見ることはなかった。
「勝ち馬」に乗ろうと
水面下で駆け引き活発化
都心の一等地で、敷地1万6000平方メートルという広大な出物に業界関係者の期待がにわかに高まったのは無理もない。