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ある企業の営業課長の求人に、人材バンクから2人の候補者が推薦されてきた。Aさんは、同じ業界で長く営業を担当してきた「キャリアに一貫性がある人」。いっぽうBさんは、有名企業の出身だが、複数の業界を経験し、職種も営業、人事またあるときは企画と、完全なる「キャリアに一貫性のない人」だ。
この2人を比べると、ほとんどの採用担当者は「キャリアに一貫性があるから、Aさんがいい」と言うだろう。そのため、人材バンクも「キャリアに一貫性がある人」が登録してくれるのを望んでいる。経歴がわかりやすく、企業に売りやすいからだ。今回もBさんは当て馬で、本命はAさんである。
そして、人材バンクはメディアやいろいろな場面で、キャリアの一貫性の必要性を力説し、多くのビジネスマンも、「一貫性のあるキャリアを積まなければならない」と思うようになった。ちなみに、ここで言うキャリアの一貫性とは、同業種内での仕事または、同職種の仕事を意味する。
しかし、みなさんにも一度考えていただきたい。果たして、同業種や同職種の枠内に居続けることに、それほど大きな意味があるのだろうか。
もちろん、同じ業界で働き続けていれば、人脈も豊富になるだろうし、即戦力として仕事はできるだろう。長年、同じ職種を続けることで、「広報のスペシャリスト」「人事のプロ」になることもできる。長く続けた者にしか持てない「勘」(洞察力)を持つ人もいる。これらのことは、正しく評価されるべきであろう。
いっぽう、業種を越え、職種を越える人は、異なる場所で異なる機能をこなす多様性対応(ポリバレント)力が高いことが想像される。しかし、それは評価されることはない。社内ではローテーションと称していくつもの職種を経験させるから、多様性対応力が必要ないと考えているわけではないのだろうが、それは教育研修のコストとして割り切っているのだろう。結果を出すことを求める中途採用者には、多様性は求めないようである。
この会社でも結局、営業課長のポストはAさんのものになった。会ってみるとBさんのほうがはるかにスマートで人当りも良く、基礎的な能力は高いうえに、会社との相性も良さそうだった。Bさんに入社してもらったら、これまで無かった新しい営業部隊が生まれるのではないか、と営業部長や採用担当者は思ったそうだ。しかし、人事部長が、「こういう一貫性の無い奴はすぐに辞める」と聞き入れず、無難な線で落ち着いた。幸いAさんは着実に成果を出し、採用は成功したのだが、営業部長や採用担当者は、Bさんに来てもらったら、もっと面白い結果になったのではないかと今でも思っているそうだ。